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日本がんセンター呼吸器内科の医師・夏目典明(なつめ のりあき)は、生命保険会社に勤務する森川雄一(もりかわ ゆういち)から、不正受給の可能性が在ると指摘を受けた。
夏目から余命半年の宣告を受けた肺腺癌患者が、リビング・ニーズ特約で生前給付金3千万円を受け取った後も生存しており、其れ処か、其の後に病巣が綺麗に消え去っていると言うのだ。同様の保険支払いが、4例立て続けに起きている。
不審を抱いた夏目は、変わり者の友人で、同じくがんセンター勤務の羽島悠馬(はしま ゆうま)と共に、調査を始める。
一方、癌を患った有力者達から支持を受けていたのは、夏目の恩師・西條征士郎(さいじょう せいしろう)が理事長を務める湾岸医療センター病院だった。
其の病院は、癌の早期発見・治療を得意とし、若し再発した場合も癌を完全寛解に導くという病院。
癌が完全に消失完治するのか?一体、癌治療の世界で何が起こっているのだろうか。
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第15回(2016年)「『このミステリーがすごい!』大賞」で大賞を受賞した小説「がん消滅の罠 完全寛解の謎」。著者の岩木一麻氏は、1976年生まれ。国立がん研究センター、放射線医学総合研究所で研究に従事した後、現在は医療系出版社に勤務という経歴を有している。
医療に関しては門外漢の自分故、医療関連の記述が全て正しいのかどうかは判らない。ネット上の書き込みを見ると、「専門家からすると、おかしな記述が在る。」という指摘“も”在る。でも、著者の経歴を踏まえると、此の作品の重要なテーマで在る「癌」に付いての記述にフィクションは無いだろう。(若しフィクションだったら、作品が根底から成立しなくなってしまうから。)
そういう意味で、癌に関する記述は非常に興味深い。ネタバレになってしまうので具体的には触れないけれど、「癌細胞って、こういう風に悪用出来ないのかな?」と自分が以前から思っていた事に対する“回答”が記されていて、「普通に行えば、そういう支障が在るのか。でも、其の支障を、こういう形でクリアすれば可能なんだな。」と勉強になったりも。
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話を聞いていると、主治医に黙ってセカンドオピニオンを受けたという。柳沢は心中で嘲笑した。それはセカンドオピニオンではなくてドクターショッピングと呼ばれる全く別の行為だ。
セカンドオピニオンというのは主治医の了解の元、診療記録を提供してもらって別の医師の意見を聞くことを指す。セカンドオピニオンは診療ではなくて相談なので健康保険が利かず、全額自己負担になることを含め、名前ばかりが有名になっていて内容について知らない人間が多すぎる。
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医療用語が多いし、文章も決して上手いとは言えないので、すらすらと読み進められるタイプの作品では無い。最後の“落ち”も“ミステリーでは定番中の定番”といった感じなので、意外性は感じられない。でも、全体的に言えば、「まあまあ面白い内容。」だと思う。
総合評価は、星3.5個とする。