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「ムガベ大統領の辞任発表 ジンバブエ、長期支配終幕」(11月22日、朝日新聞)
アフリカ南部ジンバブエの国会議長は21日、ムガベ大統領(93歳)が辞任したと発表した。ロイター通信等が報じた。1980年の独立以来、37年に及んだ長期支配は、終幕を迎えた。事実上のクーデターを起こした軍幹部や「身内」の与党幹部に退任を迫られ、此れを受け入れた形だ。
与党ジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線(ZANU-PF)は19日の緊急会合で、ムガベ氏の党首解任を決定。新党首には、副大統領を解任されたばかりのムナンガグワ氏(75歳)を選んだ。ムガベ氏の妻グレース氏(52歳)や複数の側近の党からの追放も決めた。
ムガベ氏は、ジンバブエを独立に導いた「英雄」だ。だが、独立で実権を掌握すると強権統治を進め、贅沢な私生活も相俟って「独裁者」と批判されて来た。来年の大統領選にも立候補を表明していたが、健康状態を不安視され、後継に注目が集まっていた。
ムガベ氏は今月上旬、後継が有力視されていたムナンガグワ氏を突如解任。妻のグレース氏に「禅譲」する為だったとされる。此れに、ムナンガグワ氏を支持する軍幹部が反発。軍が15日、首都に在る国営放送局を占拠する等、政府中枢を掌握し、ムガベ氏を自宅軟禁状態に置いていた。
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昔から“独裁者に関して書かれた書物”を読むのが好きで、自宅にも何冊か置いてある。独裁者は大嫌いだが、「どういう過程で、独裁者は生み出されたのか?」に強い興味が在るのだ。独裁者を生み出さない為にも、そういう過程を知る事は大事だと思うし。
今、手元に「世界の最凶独裁者 黒歴史FILE」というムックが在る。4年前に発売され、データ的には大分古いのだが、何度か読み返している本だ。20世紀から21世紀の独裁者73人が取り上げられており、当然乍らロバート・ムガベ大統領も載っている。
本の冒頭には、「2013年世界独裁者ランキング」なる物が記されている。編集部独自の基準で選ばれた物の様だが、ワースト10は以下の通り。(肩書は、2013年当時の物。)
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「2013年世界独裁者ランキング」
2位: バッシャール・アル=アサド大統領(シリア)
3位: ロバート・ムガベ大統領(ジンバブエ)
4位: オマル・アル=バシール大統領(スーダン)
5位: グルバングル・ベルディムハメドフ大統領(トルクメニスタン)
6位: イサイアス・アフェウェルキ大統領(エリトリア)
9位: テオドロ・オビアン・ンゲマ大統領(赤道ギニア)
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上記した様に、此の本が発売されたのは4年前の事。今回辞任させられたムガベ元大統領は3位に入っているが、10人の中で今も独裁者で在り続けているのは8人も居る。(ウズベキスタンのイスラム・カリモフ元大統領は、去年病死している。)
「世界の最凶独裁者 黒歴史FILE」に記されているムガベ元大統領のプロフィールから、一部抜粋してみる。
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・ジンバブエは嘗て、少数の白人が多数の黒人を支配する国だったが、長年の武力闘争により、ムガベ氏は白人政権を打倒。彼は、“白人支配に抵抗した英雄”と評された。
・ムガベ大統領は当初、白人との協調路線を進めた事から、旧宗主国のイギリスでも高く評価された。
・然し、次第に政権を私物化して行く。1998年にコンゴの内戦に介入したのも、「40歳年下のグレース夫人の為、同国に買っていたダイヤモンドの鉱山の利権を守る為だった。」と言われている。
・無駄な戦争で国民の間に不満が高まると、其の“ガス抜き”の為200年に、嘗て白人政権と戦った軍人達を動員し、白人農場主の土地を無理矢理取り上げるも、農地管理に長けた白人が国から逃げ出した結果、ジンバブエの農業生産はがた落ちとなり、食糧不足を招く。経済の混乱したジンバブエは、途轍も無いハイパーインフレーションに陥る。
・ムガベ大統領は昔から白人を以上に敵視して来たが、近年は同性愛も弾圧。ゲイは其れ丈で逮捕され、ゲイの被告に付いた弁護士も嫌がらせを受けていると言う。
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「最初は“英雄”と評されるも、次第に政権の私物化が進み、政敵を次々と“抹殺”し、“身内”で周りを固めて行く。最後の最後迄権力にしがみ付くも、クーデターによって権力の座から引き摺り下ろされる。」というのは、独裁者に在り勝ちなパターンでは在るけれど、93歳にもなって未だ権力にしがみ付こうとしていたのは、恐るべき執念。(多くの政敵を抹殺して来た事から、「権力の座から引き摺り下ろされると、自分が殺される。」という恐怖心が在ったのだろう。「現段階では殺されていない。」という事を幸いと思うべき。)
ムガベ氏が初代首相として権力を掌握したのは「1980年4月18日」。以降、大統領となった彼は、其れから「13,731日」経った「2017年11月21日」に、政権の座を追われた事になる。
長期の独裁政権が幕を閉じると、次に訪れるのは“倒した側の権力闘争”というのが御決まり。今後のジンバブエも又、可成りの間ゴタゴタする事だろう。
ただし、ムガベの侵略本能は、外に向かわなかった代わりに、内に向いて、それが、農政の破壊などの自傷行為となったのだと思います。今回の辞任に繋がったクーデターは夫人が原因との事。中国王朝時代ではありませんが、元首の夫人側の勢力が暗躍すると、国政にはろくな事はありません。
権力が指導者に近い事、闘争によって変質する事が、国家というシステムの経営を無視した、権力の暴走をもたらし、権力闘争のあるか無しかを以って、前時代的だという批判が出来るのではないでしょうか。
仮に高い志を持って政権を取ったとしても、長く其の座に居る事で本人、又は其の取り巻きの暴走が始まるのは、古今東西の歴史から良く見られる事。ムガベ元大統領の場合、仰る様に元々“政治家としての素養”に欠けていたのかもしれません。
毛沢東夫人の江青女史、マルコス大統領夫人のイメルダ女史、チャウシェスク大統領夫人のエレナ女史等々、“夫の威”を借りて其の妻が暴走するケースも少なく無い。宦官の暴走というのも在り、男女を問わず、権力者の力を借りて側近が遣りたい放題するというのは、我が国の今も変わりない。