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1940年、満州で偶然、恐ろしい国家機密を知ってしまった福原優作(高橋一生氏)は、正義の為、事の顛末を世に知らしめ様とする。福原聡子(蒼井優さん)は反逆者と疑われる夫を信じ、スパイの妻と罵られようとも、其の身が破滅する事も厭わず、唯愛する夫と共に生きる事を心に誓う。太平洋戦争開戦間近の日本で、夫婦の運命は時代の荒波に飲まれて行く。
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黒沢清監督の「スパイの妻」は、第77回(2020年)ヴェネツィア国際映画祭でコンペティション部門の銀獅子賞を受賞した作品。
「訪れた満州で、“関東軍によるペスト菌の人体実験”の事を知り、其の証拠を得た福原優作。」は、正義の心から、其の事実を世界に訴える事を決意するが、国家機密を守ろうとする憲兵達に追われる事になってしまう。
「権力者にとって不都合な事実は、全て嘘と切り捨て、徹底的に隠蔽する。」、今の日本は似た感じが在る。と言うか、世界的にそういう感じが広まっている。
夫と共に“恐ろしい事実”を世界に明らかにし様とする福原聡子が、結果的に“狂った人間”として病院に送り込まれてしまうのだが、面会に来た人間に対して彼女が言い放った「私は狂っていません。でも、今の日本では、私は狂った人間とされてしまうのでしょうね。」といった言葉は、とても印象的だった。
軽い声質から重みが感じられない上、演技の拙さも在って、俳優として評価が出来なかった東出昌大氏。私生活でも色々在った彼だが、冷徹な憲兵の役を演じている今回は「頑張っているなあ。」と感じた。「爽やかな役を演じる事が多かった高嶋政伸氏が、私生活のゴタゴタが在って以降、一転して悪役が増え、存在感を増した。」様に、彼も“悪役”で存在感を増して行けるかも。頑張れ!
夫を守る為、甥を憲兵に売った聡子。そして、彼女は“関東軍が行った人体実験の証拠”を持ち、海外に逃亡し様とするのだが、結果的に憲兵隊に捕まってしまう。証拠の映像が映し出された時、彼女は驚きの表情を浮かべ、狂った様に笑い乍ら「御見事!!」と叫んだのは、“スパイの妻”として自分がした事を、“スパイの夫”もしたという皮肉さからなのだろう。又、最後の最後に映し出された“文章”も、スパイの夫婦ならではの事と感じた。
悪い内容では無いのだけれど、観る前の期待度が高過ぎた為か、物足り無さを感じた。総合評価は、星3.5個とする。