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「私達、本当は何になりたいの?」。
音大受験に失敗した名波陽菜(ななみ はるな)は、自信を取り戻す為、姉の住む自然豊かな奥瀬見に来ていた。フルートの練習中に出会ったのは、パイプ・オルガン制作者の芦原幹(あしはら みき)・朋子(ともこ)親子。陽奈は同い年の朋子と共に、パイプ・オルガンの音作りを手伝う事に。
だが、次第にパイプ・オルガンに惹かれた陽菜は、此の儘フルートを続けるべきか迷ってしまう。中途半端な姿に朋子は苛立ちを募らせ、2人は衝突を繰り返す。
そんな中、朋子に思いも寄らぬ困難が押し寄せる。絶望に打ち拉がれ乍ら、パイプ・オルガン制作を続けるか否かに葛藤し、朋子は“怪物”を捜しに、森の中に入って行くが・・・。
果たして、パイプ・オルガンを完成させる事は出来るのか?
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逸木裕氏の小説「風を彩る怪物」は、「フルートの演奏に心血を注いで来た名波陽奈。」と「パイプ・オルガン制作に心血を注いで来た芦原朋子」という2人の少女が主人公。見た目も性格も全然異なる彼女達だが、共通するのは「天才の存在によって、自身の進む道に揺らぎが出ている。」という点。陽奈の場合は「フルートのコンテストで目の当たりにした3人の天才達の存在。」、そして朋子の場合は「パイプ・オルガン制作の天才で在る父・幹の存在。」が、結果的に彼女達を懊悩させる事に。
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「オルガンはパイプがたくさんあるので複雑に見えますが、原理は単純です。オルガンは<ふいご>という“肺”を持ち、パイプに風を供給します。アコーディオンにあるような、蛇腹を使って空気をためる装置です。そして、パイプに送り込まれた風が歌口でカルマン渦を作り、音が鳴る。フルートと同じく簡単な原理なので、古代から存在します。ただ、フルートが一本のパイプで様々な音を吹き分けられるのに対し、オルガンは一本のパイプでひとつの音しか出すことができません。」。
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叔父は、音楽に関わる仕事をしている。作詞家や作曲家等では無く、楽器の演奏を生業としており、オーケストラに参加したりもしていた。だが、自分はと言えば、真面に楽器の演奏をした事も無く。クラシック音楽の素養も無い。だから、楽器やクラシック音楽に関する詳細な記述を読むと、正直頭がクラクラして来る。「風を彩る怪物」も、そんな記述で溢れている。上記した様に、興味深い記述も在ったが、全体としては“流し読み”してしまう部分が多かった。
陽奈は3人の天才達の存在により、「自分は器用なだけで、彼等の様な強烈な特徴を持ち得ていない。」事を思い知らされる。だからこそ彼女は、「一本のパイプで様々な音を吹き分けられるフルート。」よりも「一本のパイプで1つの音しか出す事が出来ないけれど、幾つものパイプによって強烈な特徴を生み出せるパイプ・オルガン。」に魅力を感じたのだ。
“想定内の過程”を経て、“想定内の結末”に到っているので、意外性は全く無い。流し読みしてしまう部分も多く、後に残る余韻も無い。
総合評価は、星3つとする。