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歴史の主人公は「黄金」で在る。此れを手中にする為の覇権争いこそが、日本史なのだ。
「金」という覗き窓から定点観測すると、歴史教科書の生温い嘘が見えて来るジパング伝説が、どんな災厄を招いたのか?藤原秀衡や豊臣秀吉が所有していた莫大な金は、一体何処へ消えたのか?何故、現代日本の金保有量は、唖然とする程低いのか?
歴史時代小説界のエースで在り、金融エキスパートでも在る作家・加藤廣氏が、為政者への批判を込めて綴った、比類無き日本通史。
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75歳で文壇デビューし、其の処女作「信長の棺」がベスト・セラーとなった加藤廣氏。そんな彼が「日本史が苦手。」という若者が多い事を知り、彼等が実際に使っている日本史の教科書を手にしてみた所、「単なる雑知識が鮨詰めになっているだけで、其処には歴史を生きて来た人間の呼吸も、息遣いも全く感じられない代物。」で在る事を思い知らされ、「では、面白い歴史の本を書いてみよう。」と思い立つ。其れが、今回読了した本「黄金(きん)の日本史」で在る。
面白い歴史を書く上で、「何か1つの柱を立てて、其れに纏わる話にしよう。」と考えた彼が、柱として目を付けたのは「金(きん)」。「金」は「財の代表」で在り、其の集まる所が「権力と栄華の象徴」。「金」に着目すれば、結果として「注目すべき物語」になるというロジック。
戦国時代、「天下統一」の一番手となったのが織田信長。「彼を、天下統一に向かわせたのは何か?」に付いては様々な要因が在ろうけれど、信長が治めていたのが「尾張」という土地だった事に、加藤氏は「大きな要因が在った。」と指摘。
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【加藤廣氏の指摘】
1. 蚕で作る絹織物は尾張の特産品の1つだが、絹織物は女性労働故、男性は通年兵役に就かせる事が可能だった。
2. 毎年の様に、洪水に襲われる濃尾平野。米作にも適さず、男達に「土着性」の意識が低かった。「此の土地を、何としても守らねば。」という意識の低さは、「根性と粘りの無い兵を生み出す。」という点でマイナスだけれど、此の兵の弱さが逆に「『飛び道具は卑怯。』等という鉄砲に対する偏見」を生まない事に繋がった。詰まり、美意識の塊の様な「武士精神」が皆無だった事で、抵抗無く鉄砲を受け容れ、尾張兵は鉄砲好きに。
3. 主力製品で在る絹織物を売り捌く為、京都に向かうというのは、尾張の経済事情から見て当然の事だった。此の事が、強い上洛思想を芽生えさせる事に。
4. 絹織物を京都に持って行くのに都合が良い事から、楽市・楽座を奨励した。
5. 信長は斎藤道三の娘を妻に迎えたが、道三が治める美濃は金の産出国。美濃を“実質的に”手に入れ、信長の懐は大いに潤う事に。
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此れ等の「恵まれた条件」が、信長を天下統一の一番手にさせたと言うのだ。
此の本を読んで強く感じたのは、「日本人は他の国の人々よりも、『金の価値』に対して無知過ぎた。」という点。現代ではそんな事も無いだろうけれど、少なくとも過去に関しては、「無知過ぎた。」と思わざるを得ない“証拠”が幾つも記されている。例えば足利義満の時代、彼は「金」で宋や明から大量の「銅銭」を買い、国内に流通させた。「見た目が綺麗。」、「錆びない。」、「溶かしても、蒸発しない。」、「どんな形にも、変形自在。」等々、多くの利点を有する「金」を大量に海外流出させ、其の代わりに得たのが、錆び朽ちてしまう銅銭。
其の上更に、「世界に於ける金と銅の交換レート」を知らなかったが為に、破格の“安値”で金を買い叩かれていたというのだから、とんだ御人好しと言える。
幕末、長州藩や薩摩藩は当初、「王を尊び、外敵を撃退しようとする思想。」、即ち「尊王攘夷」を掲げていた。其れが途中から「倒幕運動」へと転じる訳だが、「外敵と実際に戦って負けた事(「下関戦争」や「薩英戦争」。)で、外国と日本の戦力差を思い知るに至り、『こんな弱い国にさせてしまった幕府に、もう日本は任せられない。』という強い思いが薩長の中に出来上がった事で、『尊王攘夷』は消え失せ、代わって『倒幕運動』が盛んになった。」というのが、自分が教科書等から得たイメージ。
しかし加藤氏は、「『日本が、諸外国に財貨を毟り取られている。』という現状に対する怒りが『攘夷』の根底に在った筈で、金の含有量を大幅に減らした『万延小判』を発行した(1860年)事により、金の海外流出が食い止められれば、攘夷論は其の根拠を半ば失ってしまう。『攘夷』という言葉が、幕末の或る時期からとんと聞かれなくなってしまう理由も、こう考えれば納得が行く。」と。面白い推測だ。
加藤氏は、中小企業金融公庫や山一證券等での勤務経験を有する。金融エキスパートで在り、歴史にも造詣が深い彼が、「金」を軸に日本通史を記した此の本。読み応えが在った。
「自分の立ち位置を客観的に観る(在るが儘に)事をせず、結果として外部を冷静に観察出来ない。」、確かに日本人にはそういう国民性が在りますね。
資源面だけを考えても、アメリカと戦争をしたら、どういう結末が待っているかは判りそうな物。不都合な情報を遮断されていた一般国民なら未だしも、上層部が全く知らなかった筈が無い。
又、不都合な情報を遮断させていたとはいえ、開戦に関しては一般国民にも全く責任が無いとは思わない。そういう上層部を生み&育てたのは一般国民だし、少なくとも開戦から1年程立った時点では、「大本営の発表、何かおかしくないか?」と疑問を持って然るべき。都合の良い事だけを積極的に耳に入れ、不都合な事はデマと決め付ける。そういう不都合な事を主張する人間は“非国民”として吊し上げていたのは、一般国民ではなかったのか?
以前、伊丹万作氏の言葉(http://blog.goo.ne.jp/giants-55/e/e78f48e01edc516fed9bf8cbdbd30eef)を紹介しましたが、我々は此の言葉を心に刻み込まないといけないと思っています。
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多くの人が、今度の戦争で騙されていたと言う。幾ら騙す者が居ても、誰一人騙される者が無かったとしたら、今度の様な戦争は成り立たなかったに違い無いので在る。「騙されていた。」と言って平気で居られる国民なら、恐らく今後も何度でも騙されるだろう。否、現在でも既に別の嘘によって、騙され始めているに違い無いので在る。
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結果として外部を冷静に観察できない。
だいたい「石油」が無いのに何で太平洋戦争するんですかね?
んな事をするなら東北三省の油田を開発せい!
中国だって、あの広大な大陸を点と線でなく、面で支配できると考えてたんですかね?
きちんと農村からお金を払って食糧を買っていたのに、肝心の中国の民衆を研究してないから、軍票で支払おうとして反発された。農民の多数は「後から現金化できるよ」と穏健派が多数だったのに、大事な家畜や米を詐欺されたと誤解した農民の攻撃に逆上!
以後は「三光」で、殺し尽くし、奪い尽くし、焼き尽くす…の汚名だけ残した!
だいたい「菊と刀」を戦時中に研究執筆させたアメリカですら、「ソンミ村の虐殺」したりイラクで嫌われてる。
あまりに自分の都合の良い解釈だけ取り入れて、客観性が無さすぎるんですよ!
本当に読み応の在る本ですよね。
“独自の考え”を有するという事は大事だし、決して悪い事では無いのだけれど、日本人の場合は“独自の考え”に固執し過ぎるという嫌いが在ると思っています。「列強諸国に資源を押さえられ、開戦せざるを得なかった。」という面“も”太平洋戦争には在ると思うけれど、「日清戦争以降、神の国たる日本は無敵で在る。」といった“妄想”に取り憑かれ、アメリカの実情を知ろうともしない(乃至は敢えて目を瞑った)儘、開戦へと舵を切った御偉いさんが、此の国には存在した。
世界的な金の価値を知ろうともせず、金を海外に流出させた事も、こういう“独自の考え”に固執する国民性が大きく影響しているのかも。
あの辺が斬新性を感じました。
でも万延小判で流出は止んでないと思います。
大量の金がアメリカに流出して、南北戦争の戦費になった事(英国の投資を受けていた南部に対して、北部の連邦政府は開戦時に軍資金の用意が全くなかった)や、日本の金で生産された銃火器が戦後に逆流して「二度おいしかった事」を観ましても。
如何に日本人がゴールドの価値を知らないかの証明ですね。
一方で義経北騎行伝説と黄金の関係も話して欲しかったです。あれ奥州平泉の黄金の源に関わる伝説で、その点では東津軽三郡史 事件に似る。
義経がジンギスカンとか東北に古代文明があったとかは「どうでも良い話」ですが、
近世以降に発掘された金山を除けば、中世には東北の砂金は堀尽くされていて、鉱山技術のない中世の東北に黄金が潤沢な訳がないのです。
じゃぁ…どこから来たのか?
北海道のアイヌ族を経由して、シベリアのツーングース系民族から…でないかと。
一般に知られてませんが、モンゴルの元寇は九州だけでなく、北方領土にも来ています。
アイヌ族の連合軍に撃退されてます。
この事件からアイヌ族は民族としての意識を持つに至るのですが。
モンゴルが北海道を狙ったのは、もともとシベリアの砂金に元帝国が目をつけていて、その東にさらに広大な島がある事に気がついたからでした。そこでツーングース族とアイヌの抗争に介入したのです。
ただし、北海道が日本列島に繋り、日本を南北から挟撃する…という地理的な知識が彼等にあったのかどうかは不明であります。
ですから、歴史というより伝説の範疇ですが北騎行と砂金の関係も扱って欲しかったです。
でもホントに面白い本でしたね。
非常に面白い内容でした。しかし、悠々遊様が指摘されている様に、推測の強引さを自分も感じる所が在りました。
例えば「織田信長が天下統一の一番手に成り得た要因」として加藤氏が挙げている5点ですが、5番目の「斎藤道三との結び付き。→懐が大いに潤う。」というのは非常に同意出来るし、1番目の「男性が通年兵役に就ける環境。→兵力の強化が図れる。」というのも「成る程。」と思うのですが、残りの3点、特に2番目の「鉄砲を抵抗無く受け容れられた。」というのと、3番目の「強い上洛思考を芽生えさせた。」というのは、ややこじ付けに感じました。
又、「特定の対象」に対する好き嫌いが、やや強く出過ぎている嫌いも。所謂「左翼」への嫌悪感の強さは、到る所に滲み出ていましたし。
唯、「金」という物を軸に、日本史を古代から現代に亘って語るというスタイルは斬新。此れは、評価出来ます。
ただ、giants-55様の紹介されている内容から推測すると、多少強引な我田引水も感じてしまいます。
人間誰しも自分に好ましい情報は取り入れるが、それ以外は排除したがる傾向があるので、完全に客観的視点というのは不可能ですが。
私も光り物が大好きなので、この本は興味があります(笑)。