大河ドラマの第61作として今年1月9日に放送開始となった「鎌倉殿の13人 ~THE 13 LORDS OF THE SHOGUN~」が、昨夜放送の第48回で最終回を迎えた。今日は、此の作品の総評を書く。
記事「『鎌倉殿の13人 ~The 13 Lords of the Shogun~』の初回放送を見て」で書いた様に、初回を見終えての感想は「拍子抜けしてしまった。」という物だった。脚本を手掛けるのが三谷幸喜氏という事で、放送開始前の期待度が高かったという事も在るが、三谷作品の魅力の1つで在る「“登場人物達の軽妙な遣り取り”」というのが感じられず、全体的に“硬さ”を感じてしまったので。又、北条義時役の小栗旬氏や北条時政役の坂東彌十郎氏等、キャスティング面でもぴんと来ない所が。
だが、回を重ねる毎に、良い意味で“三谷氏らしさ”が出て来た。記事「『真田丸』も良かったが」で書いた様に、「ユーモアを交えて描かれているから、歴史上の人物達が“良い意味で”身近に感じられるし、シリアスな内容との減り張りが効いて、ストーリーにぐっと引き込まれる。」、「既成概念に捉われない脚本で在り、又、一般的な知名度が決して高く無い人物や出来事に光を当てているので、非常に目新しい。」、「伏線の敷き方が見事。」等の三谷氏らしさが、遺憾無く発揮され出したのだ。*1
歴史には卑弥呼や聖徳太子、織田信長等々、“重要で大きなパーツ”が存在し、彼等が“主流”となっているのは間違い無い。でも、重要で大きなパーツだけでは歴史は存在し得ず、一般的な知名度は決して高く無い歴史上の人物のみならず、歴史に名を残せなかった数多の一般人が存在したからこそ、歴史という“精緻なジグソー・パズル”は存在し得るのだ。
話を「鎌倉殿の13人 ~THE 13 LORDS OF THE SHOGUN~」に戻すが、上総広常(佐藤浩市氏)なんぞは、一般的な知名度は決して高く無い歴史上の人物の1人だろう。彼の様な存在に加え、善児(梶原善氏)やトウ(山本千尋さん)等の“架空の人物”を描く事で、歴史を立体的に描き、ストーリーに深みが出たと思う。
「工藤祐経(坪倉由幸氏)の背後から、2人の男児が石を投げ付け、『人殺し!』と罵倒して逃げて行くシーン。」が登場する。何年か経ち、工藤祐経は“暗殺”されるのだが、彼を殺したのは曾我十郎(田邊和也氏)&曾我五郎(田中俊介氏)。親の仇で在る工藤祐経を討った「曾我兄弟の仇討ち」だが、此の時になって視聴者は「工藤祐経に石を投げ付けた2人の男児は、曾我兄弟だったのか。」と気付かされる。伏線の敷き方が見事だ。
又、「文字を書くのが下手な上総広常が、一生懸命文字を書く練習をしている場面。」が登場する。後に彼は源頼朝(大泉洋氏)の命令により殺されるのだが、殺された後になって、彼が書いていた文章が頼朝に提示される。自分にとって邪魔な存在となった事で、彼の殺害を命じた頼朝だが、一生懸命文字を書く練習をしていた上総広常が、下手な字で書いていた内容に心を揺り動かされた頼朝の表情が、強く印象に残った。此れも又、見事な伏線の敷き方。
最初はぴんと来なかったキャスティングだけれど、最終回を迎えてみれば、全体的に良かったと思う。一番の収穫は、坂東彌十郎氏という“味の在る脇役”の存在を知った事。
北条家を守るべく、“邪魔な存在”を次々と“葬り去って来た”北条義時。そんな彼が、邪魔な存在として他者から葬り去られた(と感じさせる描かれ方をされた)のは、何とも皮肉だ。
印象に残るシーンは幾つか在ったけれど、記事「あっさりと描く事で」で記したシーンは秀逸。
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義経(菅田将暉氏)の最期に関しては、「衣川館を泰衡の軍勢に囲まれた義経が、外で勇敢に戦う武蔵坊弁慶の姿を戸の隙間から覗き見て、『良いぞ、良いぞ!!』と子供の様に燥ぐ場面が描かれた直後、「義経の首が入った首桶を前にして、座る頼朝。」という場面に。報告を終えた義時に外に出る様に命じた頼朝は、首桶に向かって「九郎、よう頑張ったな。さあ、話してくれ。一ノ谷、屋島、壇ノ浦、何の様にして、平家を討ち果たしたのか。御前の口から聞きたいのだ。さあ、九郎、九郎、話してくれ。九郎・・・。(嗚咽し、首桶を抱き締める。)九郎・・・済まぬ・・・九郎・・・九郎・・・。(号泣。)」。
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啀み合い、互いに戦う事となった兄弟。そして戦いが終わり、弟の首を前にして号泣する兄。見ている自分も、思わず号泣してしまった。
良い作品だった。良い作品だっただけに、来年の大河ドラマ「どうする家康」に大きな不安が。「大河ドラマでは何度も何度も登場し、『もう御腹一杯!』という感じの徳川家康が主人公なのに加え、個人的に“苦手”な松本潤氏が主役。」なので。
*1 タイトルの“13人”は「源頼朝死後に発足した集団指導体制『13人の合議制』を構成した御家人の全人数。」を意味しているのは理解してたが、最終回で「北条義時が“謀殺”して来た13人。」の意味“も”込められている事が判り、三谷作品の奥深さを改めて感じた。