「情報機関」、即ち「スパイ機関」が協力者を得る為に使う工作活動の1つに、「獲得工作」というのが在るのだそうだ。獲得工作の意義は、「情報収集」と「積極工作」。内部の人間を利用して行う情報収集は判りが良いだろうが、積極工作となると「どういう事をするの?」と思われる方も多そう。「組織の中に居る協力者を利用する事、組織を工作する側の都合の良い方向に誘導させる。」、例えば「影響力の大きい新聞やTV局の人間を“抱き込み”、自分達にとって都合の良い報道をさせ、世論を其の方向に誘導する。」なんていうのがそうだ。此の積極工作の事を、英語で「アクティヴ・メジャーズ」言うのだとか。
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警察庁警備局警備企画課の情報分析室「ゼロ」の研修から戻った倉島達夫(くらしま たつお)警部補に下った新たなミッション。其れは、同僚で公安外事課のエース、葉山昇(はやま のぼる)の動向を探る事だった。
同じ日、新聞社の編集局次長が、マンションから転落して死亡した。自殺の線で事件を幕引きし様とする所轄の方針に、本庁と倉島は疑念を抱く。
マスコミ界の大物の死、そしてエース公安警察官に降り掛かる疑惑。2つを結ぶのは、謎の女性。マスコミ、ロシア、そして公安部と刑事部。様々な思惑が入り乱れる状況を、倉島警部補はどう読み解いて行くのか?
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好きな作家の1人、今野敏氏。多種多彩な分野の小説を著す異能の作家だが、特に魅了されるのが警察小説だ。警察小説に関して彼は幾つかのシリーズ物を著しているが、今回読了した「アクティブ・メジャーズ」は「倉島警部補シリーズ」の第4弾。「日本に於けるスパイ組織」と言っても良い“公安”を舞台にした作品だ。
「日本の公安警察で、獲得工作等の統括を担当する係。」を、嘗ては「サクラ」や「四係」と呼んでいたが、今は「チヨダ」や「ゼロ」と呼ぶそうだ。其の高い能力を買われ、スパイ養成の為の研修、即ち「ゼロの研修」を終えた許りの倉島に、同僚にして先輩の葉山の動向を探れとのミッションが。どういう意図でのミッションなのかが判らない儘、倉島は2人の“部下”達と調査に当たるのだが、普通の警察官では許されない手法を用いたりと、公安物ならではの特徴が在る。
「相手の表情や動作から、何を考えているのかを推察。」、「人を如何に上手く、効果的に使うか?」、「追い込まれた時こそ、其の人間の能力が問われる。」、「適材適所を見極める事の重要さ。」等々、一般社会でも重要な要素が随所に盛り込まれており、そういった意味でも興味深い。
「スパイだって人間。全知全能の神では無く、“失敗”する事も在る。問題は、失敗を如何に致命的にせず、良い方向に転じて行けるか。」というのも、改めて感じさせられた。
総合評価は、星3.5個。