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時は2004年。「東京中央銀行」の系列子会社「東京セントラル証券」は、鳴かず飛ばずの業績が続いていた。其処にIT企業の雄「電脳雑伎集団」の社長・平山一正(ひらやま・かずまさ)から、ライヴァルの「東京スパイラル」を買収したいと相談を受ける。アドヴァイザーの座に就けば、巨額の手数料が転がり込んで来るビッグ・チャンスだ。
ところが、其処に親会社で在る東京中央銀行から、理不尽な横槍が入る。責任を問われて窮地に陥った主人公の半沢直樹(はんざわ・なおき)は、部下の森山雅弘(もりやま・まさひろ)と共に、周囲をアッと言わせる秘策に出た。
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池井戸潤氏の小説「ロスジェネの逆襲」は、「オレたちバブル入行組」、そして「オレたち花のバブル組」に続く、所謂「オレバブ・シリーズ」の第3弾。バブル期に花形業種の銀行に入行した半沢直樹を主人公に据え、彼と其の“仲間達”が行内外での“悪”と闘うというシリーズ。
第2弾「オレたち花のバブル組」で“悪”に打ち勝ったものの、“銀行の論理”で子会社に左遷されてしまった半沢。今回の「ロスジェネの逆襲」では、「東京セントラル証券を腰掛の場と考え、一日も早く東京中央銀行に戻ろうとする、銀行からの出向組。」と、「そんな出向組に嫌悪感を抱くプロパー組。」という対立構図が、先ず在る。
そして、もう1つの対立構図は、「バブル世代」と「失われた世代(ロスジェネ)」。「『団塊の世代』が散々美味しい目に遭って来た反動で、我々は迸りを食らっている。」というのがバブル世代の怨嗟の声とするならば、「(バブル景気にる)未曾有の売り手市場の結果、容易く就職出来たバブル組。其れに対して我々は、語学力を磨いたり、多くの資格を取得する等、切磋琢磨して来たというのに、真面に就職出来ない者も少なくない。何とか就職出来ても、社内では無能力なバブル組が上に居て、年齢だけで昇進して行く。我々は、割を食って許りだ。」というのが、ロスジェネの怨嗟の声と言えよう。
バブル世代に当たる半沢だが、彼には「仮令“上”から強い圧力が掛かろうとも、自分が正しいと信じる事を押し通すという強さ。」が在る。上にも下にも阿る事無く、己が信念を貫き通す事で損をする事も少なく無い。
ロスジェネに当たる森山は、「銀行からの出向組」及び「バブル世代」に嫌悪感を持っている。上司の半沢にも「どうせ、同じ様な人間。」という思いを持っていただろうが、彼と共に“闘う”中で、「十把一絡げ的思考」や「恨んで許りの人生」が、“自らの成長”を阻む要因だった事に気付かされる。此の「気付き」、実は森山だけでは無く、読者の少なからずにも在りそうだ。
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「オレたちは新人類って呼ばれてた。そう呼んでたのは、たとえば団塊の世代といわれている連中でね。世代論でいえば、その団塊の世代がバブルを作って崩壊させた張本人かも知れない。いい学校を出ていい会社に入れば安泰だというのは、いわば団塊の世代までの価値観、尺度で、彼等がそれを形骸化させた。実際に彼等は、会社にいわれるまま持ち株会なんてのに入って自社株を買い続け、家を買うときには値上がりしたその株を売却して頭金にできたわけだ。バブル世代にとって、団塊の世代は、はっきりいって敵役でね。君たちがバブル世代を疎んじているように、オレたちは団塊の世代が鬱陶しくてたまらないわけだ。だけど、団塊世代の社員だからといって、全ての人間が信用できないかというと、そんなことはない。逆に就職氷河期の社員だからといって、全て優秀かといえば、それも違う。結局、世代論なんてのは根拠がないってことさ。上が悪いからと腹を立てたところで、惨めになるのは自分だけだ。」
(中略)
「世の中と戦うというと闇雲な話にきこえるが、組織と戦うということは要するに目に見える人間と戦うということなんだよ。それならオレにもできる。間違っていると思うことはとことん間違っているといってきたし、何度も議論で相手を打ち負かしてきた。どんな世代でも、会社という組織にあぐらを掻いている奴は敵だ。内向きの発想で人事にうつつを抜かし、往々にして本来の目的を見失う。そういう奴らが会社を腐らせる。」
(中略)
「仕事は客のためにするもんだ。ひいては世の中のためにする。その大原則を忘れたとき、人は自分のためだけに仕事をするようになる。自分のためにした仕事は内向きで、卑屈で、身勝手な都合で醜く歪んでいく。そういう連中が増えれば、当然組織も腐っていく。組織が腐れば、世の中も腐る。わかるか?」
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漫画「島耕作シリーズ」で島耕作が、又は大好きな小説「どてらい男」で山下猛造が、数多くのトラブルや人との軋轢に巻き込まれて行く中で、人として大きく成長して行く。「オレバブ・シリーズ」も、そういった面が見受けられる。キャラ立ちした登場人物達の存在も在り、ストーリーの中にグイグイ引きこまれて行く。
「時間外取引」やら「ホワイト・ナイト」やらと、7年前の「ニッポン放送買収騒動」を思い起こさせるストーリーで、実際に堀江貴文氏を思わせるキャラクター(彼程には、嫌悪感を感じさせないけれど。)も登場。経済の勉強にもなる小説だ。
兎に角、魅力的な作品。余りにも良い評価をしてしまうと、“嘘臭い”感じになってしまいそうなので非常に迷ったが、「良い作品は良い。」という事で、総合評価は星5つとさせて貰う。