*********************************
「ムーンストーン」
市議会議員の選挙アルバイトを始めた事が切っ掛けで、議員の妻となった“私”は、幸せな日々を送っていた。激務にも拘らず夫は優しく、子宝にも恵まれ、誰もが羨む結婚生活だった。
だが、人生の落とし穴は突然遣って来た。所属する党から県議会議員への立候補を余儀無くされた夫は、僅差で落選し、失職。其処から何かが狂い始めた。彼だけ優しかった夫が豹変し、暴力を振るう様になってしまった。思い余った私は・・・。
絶望の淵に居た私の前に現れた1人の女性は、有名な弁護士だと言う。彼女は忘れる筈も無い、私の掛け替えの無い同級生だった。
*********************************
湊かなえさんの9冊目の単行本「サファイア」は、宝石の名前が冠された7つの短編小説で構成されている。最後の2作品、即ち「サファイア」と「ガーネット」はリンクした内容となっているが、其の他の5作品は全く関係性を持たない内容。
良く言えば、「ヴァラエティーに富んだ内容」と言えるだろう。「人間の持『悪意』を強烈に浮かび上がらせた作品」が在ると思えば、「ニヤッと笑ってしまう落ちの作品」が在ったりするからだ。しかし悪く言えば、「一貫性の全く無い、ごちゃ混ぜの作品集。」とも。
又、上記の如く、7つの作品タイトルには其れ其れ宝石の名前が冠されているけれど、此れ等も総じて「作品の内容」云々以前に、「宝石の名前をタイトルにする事、先ず在りき。」という無理さ加減を感じてしまった。
個人的には、「サファイア」という作品が良かった。「子供の頃より人に物を強請るという事が出来なかった或る女性が、20歳の誕生日に初めて恋人に御強請りをするのだが、其の事が哀しい出来事を引き起こしてしまう。」というストーリーで、モヤモヤとした割り切れない思いを残す最後が良かった。其れだけに、“続編”の「ガーネット」は不要だったと思う。作者としては続編によって「救い」を持たせたのかもしれないが、“蛇足”とは正に此の事。勿体無い。
総合評価は、星3つとする。