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警察官を定年退職した神場智則(じんば とものり)は、妻の香代子(かよこ)と御遍路の旅に出た。42年の警察官人生を振り返る旅の途中で、神場は幼女殺害事件の発生を知り、動揺する。16年前、自らも捜査に加わり、犯人逮捕に到った事件と酷似していたのだ。神場の心に深い傷と悔恨を残した、彼の事件に。
嘗ての部下を通して捜査に関わり始めた神場は、消せない過去と向き合い始める。組織への忠誠、正義への信念・・・様々な思いの狭間で葛藤する元警察官が真実を追う。
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小説「臨床真理」で第7回(2008年)「『このミステリーがすごい!』大賞」の大賞を受賞した柚月裕子さん。此の作品に関する自分の総合評価は「星3.5個」と、「まあまあ。」といった感じだったのだが、「孤狼の血」は「星4.5個」と高評価を付けた。今回読了した彼女の作品「慈雨」は、「『本の雑誌』が選ぶ2016年度ベスト10」の1位に輝いたそうで、本の帯には大絶賛の惹句が躍っていた。
16年前、警察官だった神場は幼女殺人事件の捜査に携わり、八重樫一雄(やえがし かずお)という男を逮捕する。DNA型鑑定が決め手となったのだが、逮捕前から捜査陣の間では彼の犯人説に対して疑問の声も上がっていた。裁判で一貫して無罪を主張するも、求刑通り無期懲役の判決を受け、収監された八重樫。然し、収監から半年後、1人の警察官が「殺人事件時の八重樫のアリバイを証言する老人の存在。」を神場に伝える。「八重樫らしき男を見掛けたが、間違い無く本人とは断定出来ない。」という事だったが、神場は冤罪の可能性を疑い、上に再捜査を掛け合うも、「警察の体面を守る。」という理由から、却下されてしまう。
そして16年が経過し、警察官を定年退職した神場は、妻と御遍路の旅に出るのだが、旅先で幼女殺人事件が発生した事を知る。16年前の事件と、共通点が多い此の事件。でも、八重樫は未だ収監中で在り、同一犯では在り得ない。そうなると、矢張り八重樫は冤罪か?16年間、ずっと心の中に在った疑念が、神場を更に追い込んで行く。
「強い正義感を持った者達が、自身の誤りの可能性と直面させられた時、どういう“落とし前”を付け様とするのか?」が、此の作品のテーマと言っても良いだろう。自身の身に置き換えると、考えさせられるテーマで在り、ストーリー展開も悪くは無い。
唯、「御遍路の描写が多過ぎて、テーマの焦点がボケ気味になってしまっている事。」と、「長きに亘って捕まえられなかったのに、再捜査を始めると、捕まる迄の過程が、少々呆気無く感じられる事。」が、減点ポイントだろう。
総合評価は、星3.5個とする。