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「『メンツ・プロジェクト』 脱線で胡指導部に痛手」(7月24日、朝日新聞)
中国共産党・政府内で「面子工程(メンツ・プロジェクト)」と呼ばれていた高速鉄道が脱線し、多数の死傷者を出す事故を起こした。党創設90周年に合わせて首都・北京と最大の経済都市・上海を結ぶ路線を開通させてから1ヶ月足らず。国威発揚を狙い、諸外国では「中国独自の技術」を主張して特許申請の動きも見せていた。ネット上では事故発生直後から市民による批判の書き込みが溢れている。胡錦濤(フー・チンタオ)指導部には、大きな痛手となった。
白地に青色のラインを纏った中国の高速鉄道の車両は、胡主席の政治スローガン「和諧(調和)」を称する。脱線し、転落した車体に記された「和諧」の2文字は歪んでいた。
中国政府は高速鉄道に付いて、日欧等から購入した技術を「消化し、独自に開発した。」との立場だ。国産化比率も「9割を超えた。」と説明。欧米や日本、ロシア等で、国際的な特許申請の手続きも進めている。中国鉄道省の王勇平報道官は「我々の技術は既に日本の新幹線を遥かに超えた。」と述べる等、技術に自信を見せていた。
2005年に始まった高速鉄道の整備事業は、2008年の国際金融危機を受けた景気対策としての政策的な後押しも在り加速度的に進んだ。同年に北京-天津間が開業して以降、広州-武漢、鄭州-西安等相次いで開業し、其の距離は僅か5年で7,500キロを超えた。2020年には営業距離を1万6千キロまで延ばすという壮大な計画を描く。
速度の「世界一」にも拘った。6月に開業した北京-上海間の高速鉄道では、試験走行で時速486.1キロを記録。鉄道省は「中国の独自技術」と胸を張り、アフリカを中心とする50ヶ国に事業進出。今後は米国や東南アジア、ロシア等への輸出を目論んでいた。
しかし、今年に入り猛烈な発展の歪みが続出していた。2月、劉志軍鉄道相が「重大な規律違反」を理由に更迭。中国メディアによると、山西省の業者等から20億元(1元は約12円)の賄賂を受け取っていた疑いが在ると言う。6月には鉄道省の技術開発の中核に居た元幹部が「日独が安全性確保の為に留保していた能力を使っているだけで、中国独自の技術など無い。」と暴露。「世界一」に拘って来た劉・元鉄道相の手法に身内から厳しい批判が噴き出した。日本の鉄道技術者の間では、日本やフランス、ドイツ等各国の技術が入り交じる事で不具合が生じ兼ねない、との指摘は当初から在った。
北京-上海間の高速鉄道は、電気系統の故障による緊急停止等トラブルが続出。切符の売り上げも低調が続く等、市場の需要を無視した計画に疑問の声が上がり始めていた。一連の事業の負債も2兆元(約24兆円)迄膨らんでいる。
汚職疑惑で更迭された劉・元鉄道相は「営業距離は最長、技術は最も完全、能力は最強、速度は最高、建設中の規模も最大。」と常々話していた。東南アジアやカザフスタンへの輸出が決まった高速鉄道は、其の「優等生」でも在った。今回の事故は、日欧に比べて後発でも在るだけに、中国の海外輸出戦略に大きな打撃を与えそうだ。
北京-上海高速鉄道では試運転で最高時速486キロを記録。営業でも380キロを目指すと公言していたが、環境やコストの問題を理由に300キロに減速した。其の他の路線の多くも350キロから300キロへ減速した為、「安全面への不安が在るのではないか?」との見方も出ていた。
事故発生直後から、中国のネット上では「国家の恥」、「ドイツや日本に嘲笑われる。」といった声も在った。北京-上海間の開業日に乗り込んだ温家宝(ウェン・チアパオ)首相を始め、高速鉄道の技術力や安全性を宣伝し、求心力を高めようとしていた党指導部は今後、国内外で厳しい対応を迫られる。
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浙江省で24日夜、落雷の為停止していた高速鉄道に後ろから来た列車が衝突し、合わせて6両が脱線、死傷者は250人を超える大事故が発生した。先月の30日に開業して以降、トラブル続きだった高速鉄道だが、「大丈夫なのだろうか?」という嫌な予感が的中してしまった形だ。
此の事故を受けてネット上では「ざまあみろ。」的な書き込みも目立つが、どういう事で在れ「他者の不幸を喜ぶ」というのはどうかと思う。「『何でもかんでも日本が悪い。』といった論調の中国は不快。」という気持ちは理解出来るけれど、だからと言って「他者の不幸を喜ぶ」という形で仕返しをするのでは、彼等と同じ土俵に乗る事になってしまう。(今回の事故により、「日本の技術を導入したから、こんな事故が起こったのだ。」的な筋違いの批判が中国で出ないか懸念はしている。都合の良い時には「独自の技術」、都合が悪くなると「余所の技術」と主張するのでは、「ワシの手柄はワシの物。他人の手柄もワシの物。」という考え方と一緒で、身勝手としか言い様が無い。)人を呪わば穴二つ。犠牲になられた人々へ、心から御悔みを申し上げる。
以前にも書いた事だけれど、「今の中国」は「高度経済成長期の日本」に似た点が多いと思っている。「経済発展を最優先する余り、公害や人心の荒廃が表面化。」が最たる類似点だが、「先進国の最新技術をパクり、自国で商品化する。」というのも嘗ての日本では良く見受けられた事。日本の場合は主に欧米の先進技術をパクったが、中国の場合は其れが日本という違い。今でこそ「MADE IN JAPAN」と言えば「高品質の代名詞」だが、欧米の先進技術をパクって商品化し始めた頃は、「安かろう悪かろう」のイメージを世界から持たれていたというのだから、此の点では今の中国を一方的に非難は出来ないと思う。
だがしかし、今の中国程の独善さは無かったのではないか。先進国の最新技術を“少しでも”パクって商品化した物を、「我が国独自の商品だ!」と言い張る程の厚顔無恥さは無かった様に感じる。中国の経済発展の凄まじさは認めるが、「実る程頭を垂れる稲穂かな」という気持ちを忘れてはいけない。(此れは、日本も自戒しなければいけない事だけれど。)
急激な経済発展の反面、「仏造って魂入れず」的な面も目立つ中国。ハードウェアは立派でも、ソフトウェアが御粗末では如何しようも無い。人権蹂躙やら諸権利の侵害やらを許している国家では、きちんとしたソフトウェア作り上げる「心」を涵養するのは至難の業だと思う。未成熟な心で作り上げた、未成熟なソフトウェア。そして其の未成熟なソフトウェアで作り上げた、未成熟なハードウェア。そんな砂上の楼閣の如き体制を今後も中国が維持し続けるならば、今回の様な悲惨な事故は増えこそすれ、減る事は無い様に感じる。