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大学時代の友達と従兄の翔太郎(しょうたろう)と一緒に山奥の地下建築を訪れた柊一(しゅういち)は、偶然出会った3人家族と共に、地下建築の中で夜を越す事になった。
翌日の明け方、地震が発生し、地上への扉が岩で塞がれた。更に地盤に異変が起き、“構内”に水が流入し始めた。何れ、地下建築は水没する。そんな矢先に、殺人が起こった。「誰か1人を犠牲にすれば、脱出出来る。生け贄には、其の犯人がなるべきだ。」、犯人以外の全員が、そう思った。
タイム・リミット迄、凡そ1週間。其れ迄に、僕等は殺人犯を見付けなければならない。
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小説「方舟」を読了。 著者の夕木春央氏は小説「絞首商會」で、第60回(2019年)メフィスト賞を受賞。同氏の作品を読むのは、今回が初めて。
大学時代の友達5人及び従兄の翔太郎と共に長野県の別荘に宿泊した柊一。友人の1人が「半年位前に山奥で、偶然に巨大な地下建築を見付けた。何の目的で作られたのかは判らないが、遠く無いので見に行かないか?」と主張。興味を惹かれた彼等は、其の地下建築を訪れるが、道に迷った事も在り、其処で一夜を過ごす事になった。「道に迷った。」と、更に3人家族が加わった地下3階迄存在する構内。そして、翌日の明け方に大地震が発生し、地上への扉が岩で塞がれてしまう。加えて地盤の異変による水の流入で、計算では1週間にて構内は完全に水没してしまうと言う。助かるには、扉を塞いでいる巨大な岩を取り除かなければならないが、其の為には“構造上”、誰か1人が“犠牲”にならなければならない。そんな中、殺人事件が発生し・・・というストーリー。
伏線の敷き方が上手い。「此れは、何等かの意味合いを持っているのだろうな。」と予想は出来たものの、「そういう理由だったのか!」と何度か驚かされた。
又、謎解きの醍醐味は“真犯人当て”、“犯行動機当て”、そして“トリック当て”等に在るけれど、真犯人当て及びトリック当ては出来ても、犯行動機当てを出来た読者は、そう多くないのではないか?其れ程、犯行動機は意外性が在った。「そんな事で、人を殺したのか?」という疑問は湧くかも知れないが、“真に邪悪な人間”というのは、そういう感じなのかも。だからこそ、ブラック過ぎる結末にも違和感は無い。
ネタバレになってしまうので詳しくは書かないが、探偵役は翔太郎が務めている。中々“真相”を突き止められなかったが、終盤で“名推理”を披露。「そういう事だったのか!」と感心するも、最後の最後に大どんでん返しが待ち構えている。結末が判ってしまえば、「翔太郎って、毛利小五郎並みの“迷探偵”だったのか。」と。
偶然性に頼った設定が目立つのと、読後の後味が良く無いのは、人によって評価は分れるだろうが、読ませる内容では在る。総合評価は星3.5個。