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町田圭祐(まちだ けいすけ)は中学時代、陸上部に所属し、駅伝で全国大会を目指していたが、3年生の最後の県大会、僅かの差で出場を逃してしまう。
其の後、陸上の強豪校、青海学院高校に入学した圭祐だったが、或る理由から陸上部に入る事を諦め、同じ中学出身の宮本正也(みやもと まさや)から誘われて、何と無く放送部に入部する事に。陸上への未練を感じつつも、正也や同級生の久米咲楽(くめ さくら)、先輩女子達の熱意に触れ乍ら、其の面白さに目覚めて行く。
目標はラジオ・ドラマ部門で全国高校放送コンテストに参加する事だったが、制作の方向性を巡って部内で対立が勃発してしまう。果たして圭祐は、新たな「夢」を見付けられるか。
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「読んで嫌な気分になるミステリー。」の事を“イヤミス”と呼んだりするが、そういう作品を十八番にする代表格が湊かなえさんだ。上記したのは、湊さんの「ブロードキャスト」の梗概。
当ブログを古くから読んで下さっている方ならば御判りの事と思うが、自分は湊かなえ作品を評価していない。「文章が稚拙で在り、ストーリー展開がワンパターン。」なのが、どうしても受け付けないのだ。だから、彼女の作品が3度も直木賞候補になったのが理解出来ないし、「直木賞の価値が下がってしまうから、彼女の作品が受賞しなければ良いのだが。」と、其の都度願っていた程。
今回読んだ「ブロードキャスト」は、放送部を舞台にしている。中学時代に陸上部で活躍したものの、高校入学前に大怪我をした事で、陸上競技を諦めた町田圭祐が、同じ中学出身の同級生から“声”を褒められ、“流される儘”に放送部に入部した事から、話は始まって行く。
以前に書いた事だけれど、学生時代は良くラジオ番組を聞いていた。好きな番組の1つに「ラジオ劇画傑作シリーズ」というのが在り、放送当時に人気を博していた漫画をラジオ・ドラマ化した内容。一番印象に残っているのは、第2弾の「ブラック・ジャック」だ。効果音の使い方等、とても面白かった。
TV番組とラジオ番組の大きな違いは、受け手が“視覚”を使用するか否かだろう。TV番組の場合、視聴者は視覚を使用する。「雨が降っている。」とか「人が怒っている。」等が、画面を見ていれば、説明されずとも判る。でも、ラジオ番組の場合は“音声”だけが頼りなので、聴取者は音声のみで状況を判断する事になる。ラジオ番組の制作者は音声で状況を的確に伝えなければならないが、くどくどしい説明調だと、聴取者も飽きてしまうだろう。TV番組の制作者にも苦労は在ろうが、ラジオ番組の制作者は本当に大変だと思う。
「ブロードキャスト」では、ラジオ・ドラマ制作の難しさが色々記されており、非常に興味深かった。「そう言われてみれば、其の通りだな。」と思わされる事が幾つも。
「湊作品=ストーリー展開がワンパターン」というイメージを、「ブロードキャスト」は大きく覆してくれた。又、読み終えた後に漂うのは、イヤミスとは正反対の爽やかさ。心にぐっと来る青春群像劇で、作者名を読まずに中味を読んだら、恐らくは湊作品と判らなかっただろう。
此の作品が直木賞候補になったとしたら、受賞してもおかしくない。総合評価は、星4つとする。