ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「迷子のままで」

2020年06月21日 | 書籍関連

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津波で失われたの手帳。行方不明の、長い時を経た少年からの伝言。其処からは、強いメッセージが発信されていた。騙されるという事自体が、1つの悪なのだ。遣られっ放しで判断力を失う前に、遣れる事が在る。僕達はもう、迷子の儘では居られない。やけに心に沁みる、再生の歌2つ。
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天童荒太氏の小説迷子のままで」は、表題作の短編小説「迷子のままで」と、中編小説「いまから帰ります」の2つから構成されている。

父方の祖父は教師だった。自分が非常に幼い頃に亡くなったので、祖父の思い出は皆無に等しい。母からすると「(父方の)祖父は優しい人だった。」という事だが、父からすると「子供の頃、遊んで貰った記憶が無い。」という事だった。祖父は子供好きだったそうだが、自分の子供に対しては、接し方が余り上手く無かった様だ。

自分が子供の頃、父とゲームをすると、父は手を抜かずに“勝ち”に来た。父は真剣に勝ちに来て、結果として自分は負けてしまうのだから、悔しくて泣いた事も何度か。そんな様子を見て、母は父に対し「子供相手なんだから、手を抜いて上げれば良いのに。」と言った事が在るそうだが、父は申し訳無さそうな顔で「父親から遊んで貰った記憶が無いので、遊びの面でも、子供に対してどう対応すれば判らないんだ。」と答えたと言う。

(父方の)祖父同様、父も愛情深い人だったので、愛情を込めて育てられたという思いしか無い。でも、「親から愛情を込めて育てられなかった人は、自分が親になった際、子供にどう愛情を込めれば良いのか判らない。」というのは在る気がする。「親から遊んで貰った記憶が無い人が、自分が親の立場になった際、子供に対してどう遊べば良いのか判らない。」様に。

「迷子のままで」は、血の繋がった子供と赤ん坊の時に別れ、血の繋がらない子供の父親になろうとしている男が主人公。結果として彼は、2人の子供の父親になる事が出来ないのだけれど、「自身の親から、愛情を持って接して貰えなかった。」という過去がトラウマとなり、2人の子供達に上手く接せられなかったのだと思う

幼い2人が其れ其れ、“父親”で在る彼の顔を描いているのだけれど、其の裏に書かれた彼等の言葉が余りにも切なく、読んでいて涙が出てしまった。結末も、非常に切ない。

もう1つの作品「いまから帰ります」、明示されていないけれど、「福島第一原子力発電所事故によって発生している放射能汚染を、除染作業している現場。」が舞台と思われる。差別問題に加え、「現実を“直視”しなかったり、深く考えたりしなかった人達が、問題が発生すると『騙された!』と抗議する。」という“昔からの風潮”を取り上げている。作品内では映画監督伊丹万作氏の書いた文章多くの人が、今度の戦争で騙されていたと言う。幾ら騙す者が居ても、誰一人騙される者が無かったとしたら、今度の様な戦争は成り立たなかったに違い無いので在る。『騙されていた。』と言って平気で居られる国民なら、恐らく今後も何度でも騙されるだろう。否、現在でも既に別の嘘によって、騙され始めているに違い無いので在る。の一部が紹介されているが、全く其の通りだと思う。

心にずしんと来る物が在る2作品。天童氏の直木賞受賞作品「悼む人」はぴんと来なかった(総合評価は星3つ)けれど、今回の作品は良い!総合評価は、星4つとしたい。


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