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京都の小路の一角に、ひっそりと店を構える珈琲店「タレーラン」。恋人と喧嘩した主人公のアオヤマは、偶然に導かれて入った此の店で、運命の出会いを果たす。長年追い求めた理想の珈琲と、魅惑的な女性バリスタの切間美星(きりま・みほし)だ。美星の聡明な頭脳は、店に持ち込まれる日常の謎を、鮮やかに解き明かして行く。だが美星には、秘められた過去が在り・・・。
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第10回(2011年)「『このミステリーがすごい!』大賞」の隠し玉に選ばれ、今夏に刊行された小説「珈琲店タレーランの事件簿 ~また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を~」(著者:岡崎琢磨氏)。「タレーラン」なる名称が何を意味するのか全く判らなかったのだが、18世紀後半から19世紀頭に掛けて活躍したフランスの政治家シャルル=モーリス・ド・タレーラン=ペリゴールの名前に因んでいる。彼は美食家としても知られ、次の言葉を残しているのだそうだ。
「カフェ、其れは悪魔の様に黒く、地獄の様に熱く、天使の様に純で、丸で恋の様に甘い。」
そんな名言を残したタレーランの名が冠されている珈琲店が舞台なのだから、珈琲に関する薀蓄が随所に記されている。又、著者が京大出身者という事も在ってか、京都に関する情報も盛り込まれている。
そういった薀蓄や情報が記される事自体は、小説にアクセントを付ける意味で悪くは無いのだが、珈琲に然して関心が無い人にとっては、薀蓄を色々書かれても面白さを感じ得ないだろうし、京都に関する情報に到っては「位置関係」を良く知った人では無いと、「良く判らないなあ。」と感じてしまうのではないだろうか。ロールプレイング・ゲーム「ドラゴンクエスト・シリーズ」はだだっ広い世界を旅するけれど、(途中からでも)地図が表示されるからこそ面白いので在って、地図が全く表示されない儘に全てを終えなければいけないとしたら、こんなに苦痛な事は無いだろう。「珈琲店タレーランの事件簿 ~また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を~」の京都情報には、「地図が全く表示されない儘、ドラゴンクエスト・シリーズを進めなければいけないのと同様の不親切さ。」が在る。
登場するキャラクター達に魅力が無く、彼等の口調にもイラッとしてしまう所が在る。謎解きの面でも面白さが無いし、何よりも文章全体が非常に回りくどい。「此れって、どういう意味なんだろう?」と心に引っ掛かっていた事柄が、滅茶苦茶後になって其の意味が記されるのだけれど、大した意味じゃなかったり、意味合いが良く判らなかったりと、そういう点でもイラッとしてしまう。
著者には申し訳無いけれど、隠し玉に選ばれた理由が理解出来ないレヴェルの作品だ。総合評価は、星2つとする。