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日露戦争に「負けた」大日本帝国。終戦から11年経った大正5年、ロシア帝国統治下の東京で、身元不明の変死体が発見された。警視庁刑事課の特務巡査・新堂裕作(しんどう ゆうさく)は、西神田署の巡査部長・多和田善三(たわだ ぜんぞう)と組んで捜査を開始する。だが其の矢先、警視総監直属の高等警察と、ロシア統監府保安課の介入を受ける。何方も、大日本帝国内に於ける反ロシア帝国活動の情報収集と摘発を任務とする組織だった。
軈て2人は知る。1つの死体の背後に、国を揺るがす程の陰謀が潜んでいる事を。警察官の矜持を懸けて、男達が真相を追う!
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佐々木譲氏の小説「抵抗都市」は、日露戦争終結(1905年)から11年後、1916年の東京を舞台にしている。と言っても、大日本帝国が“ロシア帝国の事実上の植民地となっている世界”という“架空の設定”で在る。
「形の上では日露戦争で、ロシア帝国に勝利した大日本帝国。」だが、「1917年に起こるロシア革命に向け、国内がガタついているロシア帝国にとって、“面倒な戦争”を続けたくなかった。又、軍事力で大いに勝っている大国・ロシア帝国に一矢を報いたものの、戦争を続行すれば悲惨な事になるのは目に見えていた大日本帝国。2国の利害が一致した上での“痛み分け”だった。」と言える。
*********************************************************「いまだって、事実上の植民地だ。」。「違う。」と松田(まつだ)が米山(よねやま)に強い調子で言った。「天皇がいる。日本語も禁じられていない。保護国かもしれんが、植民地じゃない。」。「違いがわからない。」と米山。「こんな属国状態に甘んじていていいのか?外交の自由もなく、同盟だからと何千キロも離れた戦場に日本人を兵隊として送っていていいのか?」。「やむを得ないだろう。日本はする必要もない戦争を仕掛けて負けたんだ。外交権、軍事権を預けただけで済んでいるのは、僥倖ってものだ。」。
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今回の作品の設定、“日本とアメリカの今の関係”がどうしても重なってしまう。「こんな関係、本当に良いの?」という佐々木氏の思いを、自分は強く感じた。
“1900年代初期の空気”が伝わって来て興味深いし、ストーリーも面白い。だが、500頁近いヴォリュームは長過ぎる。もう少し“枝葉”を切り落とし、すっきりさせた方が、読み進めるのが楽だったと思う。又、「どうなって行くのだろう?」と期待を持たせた割には、終わり方が尻窄みだったのは残念。
総合評価は、星3つとしたい。