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「御嬢さん、良かったら俺を拾ってくれませんか。噛みません。躾の出来た良い子です。」。思わず拾ってしまったイケメンは、家事万能のスーパー家政夫の上、重度の植物オタクだった。「樹(いつき)」という名前しか知らされぬ儘、週末毎に御近所を「狩り」する、風変わりな同棲生活が始まった。
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子供の頃、祖母の家に置いてあった漫画「小さな恋のものがたり」(作者:みつはしちかこさん)。「背が低い事を気にしている女の子“チッチ”と、背が高くてイケメンな“サリー”の恋愛模様を描いた4コマ漫画。」で、チッチの目線から書かれた詩が随所に盛り込まれているのが印象的だった。恋の喜びや切なさ、ピュアな2人に対するもどかしさ等々、「淡い恋」といったら此の作品を思い出す程、当時は夢中になって読んでいたもの。
冒頭に記したのは、小説「植物図鑑」(著者:有川浩さん)の梗概。有川さんと言えば「恋愛小説の妙手」として知られているが、確かに「上手いなあ。」と感じる。昨今は「セックス描写が無ければ、恋愛小説に非ず。」とでも思い込んでいる様な、露骨なセックス描写で溢れ返った恋愛小説擬きが多くて辟易とさせられるのだが、「植物図鑑」に登場する河野さやかと日下部樹(くさかべ・いつき)のカップルには、チッチとサリーの関係に似た「淡さ」が在り、素直に感情移入出来るのだ。
植物に興味の無い人間ならば「単なる雑草」として目も向けない様な植物を、植物オタクの樹は心底愛でている。植生に配慮した上で、必要最低限の量の植物を摘み取り、そして料理する。植物の“命”を戴く事に対する感謝の念が伝わって来るし、何よりも「単なる雑草と思っていたけれど、そんなにも美味しいのか。」という驚きが大きい。巻末の解説で文芸評論家の池上冬樹氏が、「道端に生えている植物を、こんなに美味そうに書ける作家等、過去に居ただろうか。」と記しているけれど、全く同感だ。料理が好きな方(当ブログをしばしば覗いて下さっている雫石鉄也様等。)ならば、楽しく読める作品だと思う。
生み出して来た作品群を拝見して思うのは、「有川さんって、守備範囲の広い作家なんだなあ。」という事。作品が次々に映像化されているのは、彼女の作品が如何に多くの人を魅了しているかの証左だろう。
総合評価は、星3.5個。
子供の頃、ハンバーガーに挟まっているピクルスが大の苦手で、全て避けて食べていました。又、松前漬けも大嫌いで、正月に食べる事は一切無かった。しかし年齢を重ね、良い年になった頃、何方も大好きになった。「何でこんな美味しい物を、今迄食さなかったんだろう?」と、今となっては不思議でならない。
「味覚は、年齢と共に変わる。」という証左でしょうが、所謂「野草」も食す事は殆ど無かった。「たらの芽」なんぞは「何が美味しいんだろう?」とずっと思っていたけれど、何年か前から大好物に。素朴なんだけれど、何とも言えない風味を感じる。フキは未だに苦手だけれど、年齢を重ねて行く内に、大好物になるのかもしれません。