**********************************************************
突っ走り系広報自衛官の女子・矢部千尋(やべ ちひろ)が鬼の上官・今村和久(いまむら かずひさ)に情報開示を迫るのは、“奥様との馴れ初め”。双方一歩も引かない攻防戦の行方は?(「ラブコメ今昔」)
出張中の新幹線の中で釣り上げた、超可愛い年下の彼は自衛官。遠距離も恋する2人には、ときめきの促進剤。けれど・・・。(「軍事とオタクと彼」)
「広報官には、女誑しが向いている。」と言われつつも、彼女の居ない政屋征夫(まさや いくお)一等海尉が、仕事先で出会った良い感じの女子。だが、現場はトラブル続きで・・・。(「広報官、走る!」)
旦那が格好良いのは良い事だ。旦那がモテるのも、まあまあ赦せる。然し、今度許りは洒落にならない事態が。(「青い衝撃」)
よりによって、上官の愛娘と恋に落ちてしまった俺。彼女への思いは真剣なのに、最後の一歩が踏み出せない。(「秘め事」)
「ラブコメ今昔」では攻めに回った元気自衛官・千尋ちゃんも、自分の恋は一向に儘ならず・・・。(「ダンディ・ライオン~またはラブコメ今昔イマドキ編~」)
**********************************************************
自衛隊大好きな小説家・有川ひろさんの短編小説6作品を収録したのが、今回読んだ「ラブコメ今昔」だ。
「上意下達が徹底され、閉ざされた組織だからこそ起こってしまう陰湿な虐めによる自殺。」が時折報じられ、そういう面では不快さを持ったりもするけれど、「災害時、隊員達が必死で頑張ってくれている姿を見る。」と、自衛隊には心からの敬意を覚える自分。そんな人は多い様に思うが、自衛隊という組織に付いては具体的なイメージが浮かんでも、自衛隊員個々に付いては彼等と近しい人で無い限り、思いを馳せる事なんて、そうは無いだろう。当たり前の事だが、自衛隊員だって恋をするし、妻や夫や子供を持ったりもする。そんな当たり前だけれど、意外と一般人には思いが馳せられない自衛官達の私生活を、「ラブコメ今昔」では描いている。
「自衛隊という組織のみならず、自衛隊員個々の私生活に付いても、良く取材しているなあ。」と感じる。どうしても硬いイメージの在る自衛隊員達だが、職務に対して真剣に取り組んでいる彼等の姿を描きつつも、私生活の“柔らかい部分”も描いていて、人間らしさという物が伝わって来る。
一番印象に残ったのは「秘め事」という作品。有川さんは後書きで此の作品に付いて、「特にパイロット職の方に伺うと必ず出てくるお話が、『訓練中の事故死は多い。自分の同期はもう半分残っていない。』というようなものでした。それが私と大して年も変わらない(どころか年下だったりする)方から出てくることも再三で。」と記している。「そんなにも多く事故死しているのか・・・。」と、非常にショックだった。そんな悲しい現実を描いているからこそ、「秘め事」はぐっと来る物が在った。
総合評価は、星3つとする。