ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「サラバ!」

2015年02月16日 | 書籍関連

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1977年5月、圷歩(あくつ あゆむ)は、イランで生まれた。父・憲太郎(けんたろう)の海外赴任先だ。チャーミングな母・奈緒子(なおこ)、変わり者の姉・貴子(たかこ)も一緒だった。

 

イラン革命の後、暫く大阪に住んだ彼は小学生になり、今度はエジプトへ向かう。後の人生に大きな影響を与える、或る出来事が待ち受けている事も知らずに。

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第152回(2014年下半期直木賞を受賞した小説サラバ!」(著者西加奈子さん)。イランで生まれ、大阪で育ったという西さんだけに、イランやエジプト、そして大阪の光景が、まざまざと思い浮かぶ記述溢れている。1980年代初めの頃と思われるが、エジプトに付いて以下の記述が。

 

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授業は、日本の教科書に沿って進められた。僕が日本で使っていた教科書とは違っていたが、内容はそんなに変わらなかった。でも、やはりカイロで日本の教科書を学ぶことは、ちょくちょく無理が生じていた。例えば社会の教科書には、「パン工場見学に行こう!」というページがある。僕たちも、社会科見学称してパン工場へ行った。教科書には、清潔なパンが、清潔な工場でいかに清潔に作られるかが、紹介されてあった。だが僕たちが向かったパン工場は、教科書とは全く違っていた。バスに揺られ、たどり着いた工場は、薄暗く、古びていた。中では、衛生的な帽子もかぶらず、マスクも手袋もしていないおじさんが、素手でペタペタとパンをこねていた。「こんなとこに、何しにきたんだ?」とでもいうような感じだった。でも、焼きあがったパンをちぎって自分の口に放り込んでもらうなんてことは、日本のパン工場では経験出来なかっただろう。僕らのの中には、当然おじさんの手についたも入り込んだわけだが、でもそのおかげで、僕らの胃は丈夫になった。

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「圷家の長男・歩の誕生から、彼が中年になる半生が、彼自身の独白によって綴られる。」という、所謂モノローグ形式”が採られている。「“変り者”という表現を超越した存在の姉・貴子。」、「唯我独尊的で、“母親としての生き方”よりも“女としての生き方”を最優先させている母・奈緒子。」、「度を越した“御人好し”で、自己主張という物を知らない様な父・憲太郎。」という家族に囲まれた歩は、彼自身も「争い事を極端に嫌う。」という性格の持ち主。此の他も含め、「サラバ!」に登場する人物達は、誰もが非常に個性的なキャラクターで在る。

 

直木賞受賞時、作風が)村上春樹氏を彷彿させる。激賞された西さん。成る程其の評価は判る気がする。自分は村上作品に魅力を感じないけれど、「サラバ!」には魅了された。「村上作品の持つ不思議な雰囲気」に加え、関西人ならでは(?)の「ユーモラス文体というのが、自分を魅了したのではなかろうか。

 

最後の最後で、貴子が自身の半生を歩に語り、そして「両親が離婚する事になった“本当の”理由」を歩は知る事になる。其の結果、「自分(giants-55)の中で“非常識”とか“異常”とかと感じていた対象が、すっと移り変わって行く事。」に衝撃を受けた。此の点だけでも、「サラバ!」を読む価値が在るだろう。

 

直木賞受賞に相応しい、1人1人の人間が実に上手く描けている作品だ。総合評価は、星4.5個とする。


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