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ヴィデオ・ジャーナリストの伏見祐大(ふしみ ゆうだい)が住む鳴川市で、連続悪戯事件が発生。現場には「生物の時間を始めます。」、「体育の時間を始めます。」といったメッセージが置かれていた。そして、地元の名家出身の陶芸家が死亡する。其処にも、「道徳の時間を始めます。殺したのは誰?」という落書きが。悪戯事件と陶芸家の殺人が、同一犯という疑いが深まる。
同じ頃、休業していた伏見の下に、仕事の依頼が在る。嘗て鳴川市で起きた殺人事件のドキュメンタリー映画のカメラを任せたいと言う。13年前、小学校の講堂で行われた教育界の重鎮・正木昌太郎(まさき しょうたろう)の講演の最中、教え子だった青年・向晴人(むかい はると)が客席から立ち上がり、小学生を含む300人の前で正木を刺殺。動機も背景も完全に黙秘した儘、裁判で無期懲役となった。青年は判決に到る過程で一言、「此れは道徳の問題なのです。」とだけ語っていた。
証言者の撮影を続ける内に、過去と現在の事件との奇妙なリンクに搦め捕られて行くが、「ジャーナリズム」と「モラル」の狭間で、伏見は其れ其れの事件の真相に迫って行く。
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小説「道徳の時間」(著者:呉勝浩氏)は、第61回(2015年)江戸川乱歩賞を受賞した作品。西村京太郎氏や森村誠一氏、和久峻三氏、栗本薫さん、東野圭吾氏、池井戸潤氏等々、同賞の受賞者には錚々たる顔触れが並んでいる。そんな凄い賞を受賞した作品で在り、上記した様な風変りな設定も在って、非常に期待して読み始めたのだが・・・。
小説には、現実離れした設定が在っても良いと思っている。だが然し、「現実離れしたら、物語自体が嘘臭くなってしまう設定。」というのも在る。此の作品で言えば、「殺人事件を起こし、無期懲役の判決を受けた人間が、僅か13年で出所する。」という設定なんぞは、現実離れの最たる物。仮令模範囚で在ったとしても無期懲役の場合、仮釈放がそんな短期間で認められる事は無い。1977年~1988年でも平均で「16年程度」、厳罰化が進む近年では「30年以上」となっており、「13年」というのは考えられず、物語自体が嘘臭くなってしまっている。
又、犯行の動機が非現実的、全く意味の無い設定、稚拙な文章、「『道徳の時間』というタイトルの意味合いが判らない。」等々、申し訳無いけれど、とても江戸川乱歩賞を受賞出来るレヴェルの作品とは思えなかった。
総合評価は、星1.5個とする。