「功名が辻」が良い。大河ドラマを本格的に見出したのは第16作目の「黄金の日々」辺りからで、それ以降は作品によって、スタートから数話で見切りを付けたり面白くてずっと最後迄見たりという感じだった。昨年の「義経」も悪くは無かったが、「功名が辻」は久々に「これぞ大河ドラマ!」という満足感を与えてくれている。
正直言えば、「主人公が山内一豊(上川隆也)及びその妻の千代(仲間由紀恵)というのは地味だなあ。」という思いは在った。又、ここ数年は旬の若手俳優を主人公に据えていたのと比すと、中堅&ベテラン級の役者で固めた今回は、”華”という意味でどうかなという気もしていた。しかしドラマは上手い役者が多ければ多い程、その中身が倍にも数倍にも魅力を増す。*1そんな当たり前の事を、再認識させてくれるドラマだ。
昨日は「関白切腹(第38話)」というタイトルで、豊臣秀吉(柄本明)から謀反の疑いを掛けられ、その不興を買った甥の秀次(成宮寛貴)が、秀吉の命で高野山に追放され、その後自害に追い遣られる話だった。
簡単にそれ迄の歴史を記すと、秀次は秀吉の姉夫婦の間に生まれた長男で、幼少の頃より有力武将の元に”人質”として二度送り込まれた過去を持っている。織田信長(舘ひろし)亡き後、秀吉が天下を掌握して行く過程では、秀吉の数少ない肉親として重用されて行く。秀吉の嫡男・鶴松が僅か2歳で病死して以降は、他に子供の居なかった秀吉の養子となり、その後継者として関白職を引き継ぐ。しかし2年後、秀吉と側室の淀殿(永作博美)との間に拾(後の秀頼)が誕生した事で、秀次の人生は暗転する事となる。秀吉が実の息子の拾を跡継ぎに据え様と思い始め、徐々に秀次を疎む様になったからだった。そして秀次が謀反を企んでいるという噂が飛び交う。
秀次の”御目付け役”で在る一豊は、秀吉から秀次を連れて来る様に命じられる。太閤・秀吉と関白・秀次の間で板挟みになり、苦悶する一豊。秀吉からの呼び出しに応じようとしない秀次に、「直ちに秀吉様と会って申し開きをし、許しを乞う様に。」と頼む一豊に対し、秀次の家臣達は「呼び出しに応じれば、(秀吉に)殺されるだけだ。」と殺気立つ。
其処に千代が現れ、「仏門に入り、秀吉様の御許しを得る様に。」と秀次を説得する。幼少時の秀次に読み書きから武士の心得を教えた千代の頼みに、秀次は秀吉の元に向かう事を決断する。しかし、それは自身の許しを乞う為では無く、関白として秀吉の言動を諌めるという、自らの命を賭した決断だった。
「唐入りの兵を一日も早く御引きなさいませ。天下は天下の為の天下。太閤殿下だけのものでは御座いませぬ!」
秀吉に向かって吐いたこの諫言で、秀次とその一族郎党は死に追い遣られる事となるのだが、時代に翻弄され続けた秀次の姿が何とも哀れさを誘う。
もう一つ胸を打たれたのは、一豊と千代が息子の拾(秀頼の幼名と同じ。)に別れを告げるシーン。
息子と書いたが、拾は彼等の実子では無い。彼等には与祢という実の娘が居たのだが、大地震でその幼い命を奪われてしまい、その後は子宝に恵まれなかった。或る日、屋敷の門前に捨てられていた男の赤子を見付けた千代は、その子を屋敷で育てる事を決める。それが拾だった。年を加える毎に聡明さを増す拾を、一豊夫婦は実子の如く慈しみ、やがて山内家の家督を継がせようと思う迄になる。
しかし一豊には康豊(玉木宏)という実弟が居り、彼には忠義という実子が居た事が山内家に不協和音を生じさせる事となる。家臣の中には「何処の馬の骨とも判らない捨て子の拾に家督を継がせるのはおかしい。正当な後継者は、血の繋がりを持つ者で在る可きだ。」と、忠義を山内家の後継者に推す者が少なくなかったからだ。
「父上の様な立派な武士になりたい。」と幼少時から武道&学問に励んでいた愛する”我が子”拾。だが豊臣家の御家騒動の悲劇を嫌と言う程見せ付けられた一豊夫婦は、「このまま拾に家督を継がせると、後に御家騒動に巻き込まれ、拾に災いが降り注ぐやもしれない。」と案じ、苦渋の決断を下す。
「父はこれ迄に多くの殺生をして来た。偏に御家の為と思って為して来た事だが、御前に彼等の御霊を鎮めて貰いたいのだ。」と、拾に仏門に入る事を命じる一豊。「私が捨て子だから、此処から追い出されるのですか?」と尋ねる幼き拾に、千代は「そうです。」と敢えて突き放した答を返す。我が子を守りたいが為に言い放った哀しい嘘。全てを悟った拾は、「父上の命ならば従います。」と仏門入りを決める。
そして別れの朝。雪が舞い散る屋敷を後にする拾。そして胸を掻き毟られる思いで、その姿をじっと見詰める一豊夫婦。「何処に在っても、そなたはわし等の子じゃ。達者で・・・拾・・・。」去り行く子と、それを見送らなければならない夫婦。双方の哀しみがひしひしと伝わって来て、涙腺が緩んでしまった。
全話の4分の3を過ぎ、いよいよストーリーは佳境に入って行く。昨年の「義経」でも何度か泣かされたが、「功名が辻」でもかなり泣かされそうな予感がしている。
*1 ”菅井ゴールド”こと菅井きんさんと、”前田シルバー”こと前田吟さんの”金銀コンビ”?を始めとして、味の在る脇役が多く出演しているのが嬉しい。
信長の妹・お市の方を、大好きな女優の一人で在る大地真央さんが務めていたのも良かったが、何と言っても秀吉役の柄本明氏の”怪演”が光っている。思い返せば彼を初めて知ったのは、今から26年前にTBS系列で放送されていたドラマ「春の訪問者 ミセスとぼくとセニョールと!~夢飛行~」だったと記憶している。主役の郷ひろみ氏が、医学部を目指して3浪中の青年という役割のこのドラマ。他には藤竜也氏や阿木燿子さん、池部良氏、伊東四朗氏、そしてやっと売れ始めた頃のタモリ氏も出ていた。
全体的に何かごった煮の様な、怪しげな雰囲気すら感じさせるドラマだったが、中でも個人的に最もインパクトを感じさせてくれたのは無名時代の柄本明氏。確か医者(泌尿器科?)の役だった藤竜也氏の元を訪ねる、極度のマザコンでまともに他者と会話を交わせない中年男で、それもインポテンツ、今で言う所のEDの患者という設定だった。その名前はフミヒコちゃん。毎回母親に連れられて受診するのだが、常に話をするのは母親だけ。フミヒコちゃんはじっと下を向いたまま一言も話そうとせず、藤氏演ずる医者が彼に、「君はどう思うんだ?」といった事を聞いても黙ったまんま。「どうなの、フミヒコちゃん?」と母親が訪ねると、唐突に強烈なイントネーションで「ママ!」と一言発するだけという、実にインパクトの在る役。
まさか此処迄、柄本氏が味の在る役者になるとは当時全く想像出来なかった。この時の母親を演じていたのは、「功名が辻」で秀吉の実母・なかを演じていた菅井きんさんというのも、何か奇しき縁を感じてしまう。
正直言えば、「主人公が山内一豊(上川隆也)及びその妻の千代(仲間由紀恵)というのは地味だなあ。」という思いは在った。又、ここ数年は旬の若手俳優を主人公に据えていたのと比すと、中堅&ベテラン級の役者で固めた今回は、”華”という意味でどうかなという気もしていた。しかしドラマは上手い役者が多ければ多い程、その中身が倍にも数倍にも魅力を増す。*1そんな当たり前の事を、再認識させてくれるドラマだ。
昨日は「関白切腹(第38話)」というタイトルで、豊臣秀吉(柄本明)から謀反の疑いを掛けられ、その不興を買った甥の秀次(成宮寛貴)が、秀吉の命で高野山に追放され、その後自害に追い遣られる話だった。
簡単にそれ迄の歴史を記すと、秀次は秀吉の姉夫婦の間に生まれた長男で、幼少の頃より有力武将の元に”人質”として二度送り込まれた過去を持っている。織田信長(舘ひろし)亡き後、秀吉が天下を掌握して行く過程では、秀吉の数少ない肉親として重用されて行く。秀吉の嫡男・鶴松が僅か2歳で病死して以降は、他に子供の居なかった秀吉の養子となり、その後継者として関白職を引き継ぐ。しかし2年後、秀吉と側室の淀殿(永作博美)との間に拾(後の秀頼)が誕生した事で、秀次の人生は暗転する事となる。秀吉が実の息子の拾を跡継ぎに据え様と思い始め、徐々に秀次を疎む様になったからだった。そして秀次が謀反を企んでいるという噂が飛び交う。
秀次の”御目付け役”で在る一豊は、秀吉から秀次を連れて来る様に命じられる。太閤・秀吉と関白・秀次の間で板挟みになり、苦悶する一豊。秀吉からの呼び出しに応じようとしない秀次に、「直ちに秀吉様と会って申し開きをし、許しを乞う様に。」と頼む一豊に対し、秀次の家臣達は「呼び出しに応じれば、(秀吉に)殺されるだけだ。」と殺気立つ。
其処に千代が現れ、「仏門に入り、秀吉様の御許しを得る様に。」と秀次を説得する。幼少時の秀次に読み書きから武士の心得を教えた千代の頼みに、秀次は秀吉の元に向かう事を決断する。しかし、それは自身の許しを乞う為では無く、関白として秀吉の言動を諌めるという、自らの命を賭した決断だった。
「唐入りの兵を一日も早く御引きなさいませ。天下は天下の為の天下。太閤殿下だけのものでは御座いませぬ!」
秀吉に向かって吐いたこの諫言で、秀次とその一族郎党は死に追い遣られる事となるのだが、時代に翻弄され続けた秀次の姿が何とも哀れさを誘う。
もう一つ胸を打たれたのは、一豊と千代が息子の拾(秀頼の幼名と同じ。)に別れを告げるシーン。
息子と書いたが、拾は彼等の実子では無い。彼等には与祢という実の娘が居たのだが、大地震でその幼い命を奪われてしまい、その後は子宝に恵まれなかった。或る日、屋敷の門前に捨てられていた男の赤子を見付けた千代は、その子を屋敷で育てる事を決める。それが拾だった。年を加える毎に聡明さを増す拾を、一豊夫婦は実子の如く慈しみ、やがて山内家の家督を継がせようと思う迄になる。
しかし一豊には康豊(玉木宏)という実弟が居り、彼には忠義という実子が居た事が山内家に不協和音を生じさせる事となる。家臣の中には「何処の馬の骨とも判らない捨て子の拾に家督を継がせるのはおかしい。正当な後継者は、血の繋がりを持つ者で在る可きだ。」と、忠義を山内家の後継者に推す者が少なくなかったからだ。
「父上の様な立派な武士になりたい。」と幼少時から武道&学問に励んでいた愛する”我が子”拾。だが豊臣家の御家騒動の悲劇を嫌と言う程見せ付けられた一豊夫婦は、「このまま拾に家督を継がせると、後に御家騒動に巻き込まれ、拾に災いが降り注ぐやもしれない。」と案じ、苦渋の決断を下す。
「父はこれ迄に多くの殺生をして来た。偏に御家の為と思って為して来た事だが、御前に彼等の御霊を鎮めて貰いたいのだ。」と、拾に仏門に入る事を命じる一豊。「私が捨て子だから、此処から追い出されるのですか?」と尋ねる幼き拾に、千代は「そうです。」と敢えて突き放した答を返す。我が子を守りたいが為に言い放った哀しい嘘。全てを悟った拾は、「父上の命ならば従います。」と仏門入りを決める。
そして別れの朝。雪が舞い散る屋敷を後にする拾。そして胸を掻き毟られる思いで、その姿をじっと見詰める一豊夫婦。「何処に在っても、そなたはわし等の子じゃ。達者で・・・拾・・・。」去り行く子と、それを見送らなければならない夫婦。双方の哀しみがひしひしと伝わって来て、涙腺が緩んでしまった。
全話の4分の3を過ぎ、いよいよストーリーは佳境に入って行く。昨年の「義経」でも何度か泣かされたが、「功名が辻」でもかなり泣かされそうな予感がしている。
*1 ”菅井ゴールド”こと菅井きんさんと、”前田シルバー”こと前田吟さんの”金銀コンビ”?を始めとして、味の在る脇役が多く出演しているのが嬉しい。
信長の妹・お市の方を、大好きな女優の一人で在る大地真央さんが務めていたのも良かったが、何と言っても秀吉役の柄本明氏の”怪演”が光っている。思い返せば彼を初めて知ったのは、今から26年前にTBS系列で放送されていたドラマ「春の訪問者 ミセスとぼくとセニョールと!~夢飛行~」だったと記憶している。主役の郷ひろみ氏が、医学部を目指して3浪中の青年という役割のこのドラマ。他には藤竜也氏や阿木燿子さん、池部良氏、伊東四朗氏、そしてやっと売れ始めた頃のタモリ氏も出ていた。
全体的に何かごった煮の様な、怪しげな雰囲気すら感じさせるドラマだったが、中でも個人的に最もインパクトを感じさせてくれたのは無名時代の柄本明氏。確か医者(泌尿器科?)の役だった藤竜也氏の元を訪ねる、極度のマザコンでまともに他者と会話を交わせない中年男で、それもインポテンツ、今で言う所のEDの患者という設定だった。その名前はフミヒコちゃん。毎回母親に連れられて受診するのだが、常に話をするのは母親だけ。フミヒコちゃんはじっと下を向いたまま一言も話そうとせず、藤氏演ずる医者が彼に、「君はどう思うんだ?」といった事を聞いても黙ったまんま。「どうなの、フミヒコちゃん?」と母親が訪ねると、唐突に強烈なイントネーションで「ママ!」と一言発するだけという、実にインパクトの在る役。
まさか此処迄、柄本氏が味の在る役者になるとは当時全く想像出来なかった。この時の母親を演じていたのは、「功名が辻」で秀吉の実母・なかを演じていた菅井きんさんというのも、何か奇しき縁を感じてしまう。
TBありがとうございました♪
「功名が辻」
想像した以上に胸を打つシーンが多い作品ですネ。
中でも私は佐久間良子さんのシーンが好きでした。
出家し、庵に一人住まう荘厳な姿。
「おんな太閤記」のねね、北政所=高台院を思い出しました。
佐久間さんの細やかなお芝居、目の配り、
やはり往年の銀幕の女優さんです。
そして番組のテーマミュージックというかメインタイトルです♪
あの曲が流れてきただけで、私の涙腺はユルユルです(笑)
小六禮次郎さんが倍賞千恵子さんのご主人だとは知っていましたが、
あんなに美しく、大河に相応しい作品を提供する方だとは思いも寄りませんでした。
存在感、気高さ、大河の主題曲のベストに入ると思います。
現在、スカパー!で放送中の番組で、
「女人平家」
を私は毎週視聴しているのですが、
平清盛の夫人であり一門を支えるお袋様=時子を、
有馬稲子さんが演じてます。
もうっ、私は嬉しくて嬉しくてたまりません!
「浪花の恋の物語」
あの作品での有馬さんは遊女・梅川を演じていましたが、
女性らしい所作、思いを湛えた瞳、
もう手の動き一つ、目線の表現一つ、
まさに一喜一憂しております!
心優しき北のお方さま、平時子、
真実愛した男への思いを貫く梅川、
有馬さんや佐久間さんを生かす企画を持たぬ映画界、
今の日本映画にとって大きな損失ですネ。
またまた愚痴をこぼしてしまいました(汗)
“なんじゃ、ただの愚痴か?”
法秀尼さまのお叱りを受けそうです(笑)
ゴクミの「めごでございます」
ごうもりたの・・・サル?
大河の子役はスターへの階段でしょうか??
今回の拾くんの演技もピカッと光っていました。
脇差を手に立ち上がり涙がこらえられず号泣するシーン。
おかーさんはもらい泣きしましたよ!
歴史の面白さの一つに、視点を変えてその人物像を考察するというのも在ると思います。天下の大悪人の様に描かれて来た吉良上野介が、実は地元の吉良町では名君の誉れ高い人物だったという例が有名な様に、その時代や立場によって評価が様々なのが何とも興味深いです。そしてマヌケ様も書かれておられる様に、諸文献を紐解きながら、自分なりにその人となりを想像するのも好きです。
仰るように古今東西の愛憎悲喜劇を見て行くと、人間って進化している様で、その根本に在る物は殆ど変わっていないんだなあと思い知らされますね(苦笑)。
特に衣装とか時代考証があきらかに違うのは興醒めです。
幕末なのに鎧兜だったり。
「黄金の日々」は記憶にあります。まだ小さかったけど楽しみに毎週、観てました。
最近では「北条時宗」が面白かったです。
大河ドラマは戦国、幕末、忠臣蔵、源平ってパターンが決まってるので、時宗のように今まで取り上げなかった人物や時代をテーマにドラマ作ると面白いと思います。
例えば田沼意次を経済政策から描くとか・・