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チンピラが路上で睨み合っているとの通報を受けて、現場に駆け付けた北綾瀬署のマル暴刑事・甘糟達男(あまかす たつお)。人垣に近付こうと思った其の時、「待て、待て、待て。」と大きな声が掛かり、白いスーツを来た恰幅の良い男が割って現れた。
翌日の夜、チンピラの1人が刺殺体で発見される。捜査本部が立ち上がり、甘糟と強面の先輩刑事・郡原虎蔵(ぐんばら とらぞう)も参加するが、捜査線上に浮かんだ意外過ぎる人物に翻弄される事に。
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“史上最弱の刑事”甘糟を主人公とした、今野敏氏の小説「マル暴総監」は、「マル暴甘糟シリーズ」の第2弾に当たる。「様々な場所に現れては、チンピラ達に喧嘩を売る、50代半ばから後半の恰幅が良い白スーツの男。」が登場するのだけれど、“正義の味方”という雰囲気の彼の正体は警視総監の栄田光弘(さかえだ みつひろ)。「身分を隠し、悪を成敗する。」という意味では、“水戸黄門”や“暴れん坊将軍”、“大岡越前”、“浅見光彦”等と同じパターン。
そんな栄田の姿が或る事件現場で確認されていた事から、「彼が、殺人事件に関わっているのではないか?」と捜査本部は判断する。栄田の姿を確認していたのが甘糟で、其の時点で彼は「白スーツの男=警視総監」なんて全く知らない。彼は此の殺人事件の捜査本部が立ち上がった際、臨席した栄田の姿を見て、初めて「白スーツの男=警視総監」と判るが、栄田は甘糟に対し「自分が白スーツの男で在る事を口外しない事と、真相究明を厳命する。」のだった。
「白スーツの男が犯人では無い。」という事が判っている甘糟に対し、捜査本部の面々、特に御偉いさん方は「白スーツの男が犯人に違い無い。」という捜査方針を打ち出す。又、ヤクザ達も同様で、“身内殺し”に関係した人間として、白スーツの男を追う。事実を知っている甘糟は、彼等の間で翻弄されてしまう。
「何とも頼り無い甘糟。」や「好い加減な雰囲気の郡原」が、肝心な時には鋭さを見せるギャップが面白いのだけれど、小説とは言え、白スーツという目立つ格好をした男が、各地で“チンピラ退治”をしていて、其の正体が警視総監と気付かれないというのは、現実味を感じさせない。“破茶滅茶な設定のコミカル小説”と割り切ってしまえば、まあ「在り。」なのだろうが。
危ないのは、そうした、現場で丁寧なやり取りや、界隈独特の固有言語、その翻訳、理解作業を経ずに、経験値の低い事が、対話と緩衝を経ない、警察権の強権発動に至るのだと思います。
コミュニケーションを取れる事が、流動する秩序や常識を統制し、生き物を御するが如く、働くのが、現場が必要とする刑事だと思います。
「警察24時」的な番組を見ていると、マル暴担当の警察官には、「其方の方?」と思ってしまう様な風貌の人が結構居ますね。「舐められてはいけない。」と、先ずは見た目からという事なのかもしれませんが。
「危ないのは、そうした、現場で丁寧な遣り取りや、界隈独特の固有言語、其の翻訳、理解作業を経ずに、経験値の低い事が、対話と緩衝を経ない、警察権の強権発動に至るのだと思います。」というのは全く其の通りだし、此れは「ヤクザvs.警察」だけの話では無く、色んな世界で言えそうですよね。