ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」

2013年04月28日 | 書籍関連

ファミコン”の全盛期、本体やゲーム・ソフトを購入する家電量販店長蛇の列が出来ている様子を、ニュース番組等で良く見聞した。中には数日前から並んでいるという人もたりして、基本的に「長時間待つのが苦手な自分」なんぞは、「良くもまあ、そんな長時間待てるなあ。」と思ったりしたものだ。

 

昨今其の手の報道を見聞する機会は、格段と減った気がする。一部のブランド品やiPhoneiPad等の他で言えば、発売初日に村上春樹氏の新作を買い求める人の列が出来る位か。カウントダウンをして“日”が変わる瞬間を迎え、新作を買い求める光景は、最早定番”と言って良い。「村上春樹」という作家に思い入れの無い自分としては、「凄いなあ。」と感じる許り

 

4月12日、彼の新作「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」も、そんな熱狂的な雰囲気の中で発売となった。発売から6日後の18日には、累計発行部数が100万部に達したそうで、十数年以上に及ぶ出版不況の状況下、「村上春樹」というブランドの持つ凄さを改めて感じた。

 

村上作品は、前作の「1Q84」しか読んだ事が無いし、其の「1Q84」自体も、正直ピンと来なかった。其れでも今回、「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を読む気になったのは、生まれ乍らの“ミーハー気質”に加え、此の作品の不可思議なタイトルが気になったから。

 

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主人公は、東京鉄道会社で駅作りの仕事に従事している、36歳の多崎作(たざき・つくる)。彼は「大学2年生の7月から、翌年の1月に掛けて、殆ど死ぬ事だけを考えて生きていた。」という過去を有す

 

名古屋の公立高校に入学した“つくる”は、参加したヴォランティア活動を通じて仲良くなった同級生4人が居た。団塊の世代を親に持ち、暮らし向きも「中の上」という似た環境の彼等は、其れ其れが「自分は今、正しい場所に居て、正しい仲間と結び付いている。」と信じて疑わない程、良い関係に在った。

 

4人の名前は赤松慶(あかまつ・けい)、青海悦夫(おうみ・よしお)、白根柚木(しらね・ゆずき)、そして黒埜恵理(くろの・えり)。“つくる”以外は全て、名前に「色」が入っている。“つくる”の名前だけが「色彩を持たない。」のだ。

 

未来永劫に続くと思われた彼等の良い関係が、大学2年生の夏休みに、唐突に終了してしまう。5人の中では1人だけ地元を離れた“つくる”が、名古屋に帰郷した際、4人に連絡を取るも、何故か彼等は会おうとしない。何度か連絡を取った挙句、“アオ”こと青海悦夫から言われたのは「悪いけど、もう此れ以上誰の所にも電話を掛けて貰いたくないんだ。」という、一方的な“離別宣言”だった。

 

4人から離別を申し渡される理由が、全く理解出来ない“つくる”。結局、彼等の申し出を受け容れざるを得ないと思うものの、理不尽仕打ちに身も心も疲弊させられ、「彼」は「其れの彼」とは違った人間になってしまう。

 

其れから16年が経ったけれど、“つくる”の心の中には深い傷が残った。一方的な別離宣言は、一体何だったのか?本当の自分を取り戻す意味からも、“つくる”は「過去」を探る事を決意する。

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ザックリとした梗概「何が一体在ったのだろうか?」という覗き見趣味的な物が刺激されるストーリーに、どんどん引き込まれて行く。「1Q84」の様な“非現実的な描写”が無い事も、個人的には好ましい。

 

しかし、読み終わって残ったのは、「そんな事で、無関係な人間を“悪者”に仕立て上げるもの?」、「非常に良い関係を築いていたのに、本人に事実確認する事も無く、“切って”しまうなんて在り得ないでしょ?」、「結局、“彼女”を妊娠させたのは誰だったの?」、絞殺事件を登場させた事に、全く意味合いが無かったの?」等々、幾つもの疑問。ミステリーじゃないのだから、全ての謎が解明される展開で在る必要性は無い。」と頭で判っていても、モヤモヤとした思いはどうしても残る。

 

村上作品のファンは、こういうテーストが好きなのかもしれないが、自分は「うーん。」という感じ。「1Q84」よりは魅了されたけれど・・・。

 

総合評価は、星3つとする。


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6 コメント

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Unknown (マヌケ)
2013-04-28 13:40:37
行列はニュース向けのパフォーマンスで、書店側が仕込んだアルバイトもたくさんいたのではないでしょうか。 アップルがいつもやっている手法と同じだと思いますよ。 近所のショッピングセンターの中の書店では並ぶこともなく普通に買えます。 確かにもやもやは強い、引きずる作品ですね。 期待に反してつまらなかったです。   
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>マヌケ様 (giants-55)
2013-04-28 23:29:55
書き込み有難う御座いました。

“ステマ”(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%B1%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0)という用語を最近は見聞する機会が多いのですが、所謂“桜”を動員して、売り上げアップを図るという手法自体は、昔から散見されますね。

村上作品、自分は今回で2作品目なのですが、どうも波長が合いません。「XXは眠気を感じていた。(と言って、何時もそういう訳では無いのだが。)」の様な、「或る記述をし、其の直後に括弧書きで更なる説明書きをする。」のが村上氏は好きな様なのですが、此れも多用されてしまうとくどくどしさを感じてしまう。
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なんとなく思うのだが (spade)
2013-05-04 14:05:37
最近の作品は読んでいないのですが、初期作品は割と好きです。
思うのですが、彼はジャズや洋楽ロックをちりばめることが多く、作風自体も米国文学の強い影響下にある。近作は全く読んでいないので分かりかねますが、基本的なラインはそれほど変わらないように思います。
その辺が土着的なものが好きなgiantsさんには合わないのではないでしょうか。
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>spade様 (giants-55)
2013-05-04 18:26:21
書き込み有難う御座いました。

「作風自体が、米国文学の強い影響下に在る。」、成る程、そう言われてみれば判る気がします。伊坂幸太郎氏の作品と今一つ肌合いが良くないのも、似た理由だからかもしれません。
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Unknown (マヌケ)
2014-08-31 14:20:38
昨日のニュースでは、ロンドンの書店で村上春樹のサインをもらうために並んだ人たちがインタビューを受けていましたね。感激して喜ぶ若者からおじさんまでいました。確かに、村上春樹の感性は外国人の方が受け入れやすいところがあるのかもしれませんね。無国籍なワールドと天才的なエロス表現に夢中になります。
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>マヌケ様 (giants-55)
2014-09-01 00:07:25
書き込み有難う御座いました。

「日本人の作品なのに、何故か日本人よりも外国人に好まれる。」、江戸時代末期の浮世絵なんかは、当初、そんな感じだったんでしょうね。当時は海外向けの陶器の“包み紙”として使われていた浮世絵が、異国の地で「此の素晴らしい絵は何だ!?」と驚嘆され、蒐集されて行った。そんな動きを後に知った日本人が、浮世絵の素晴らしさを思い知らされ、蒐集する様になった。

村上氏の場合は日本でもファンが多いので、必ずしも日本では受けないという訳では無いのでしょうが、好き嫌いはハッキリ別れるタイプの作家かもしれません。
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