2011年の民主党政権時代、「菅直人氏の後継を決める総裁選で、国会議員のみの投票で決める事になった。」際、自身のブログで「与党の代表を選ぶ事は、日本の総理大臣を決める事で在り、本来なら候補者が自らの考え、政策を広く国民に示し、議論を深めるべき物です。」、「民主党はたった2日の選挙戦で、議員の投票だけで代表を選ぼうとしています。民主党内で政策論争は殆ど見られず、候補者は民主党議員の顔色を窺い、多数派工作に終始しています。」等と記し、党員やサポーターが選挙に参加出来ない民主党を批判していた菅義偉現官房長官。
東日本大震災発生から5ヶ月18日後の「8月29日」に予定されていた民主党代表選挙は、「『“政治空白”を作らない為にも、迅速な選挙を行う必要が在る。』等の理由から、投票権は国会議員に限定され、一般党員やサポーターの投票は認められなかった。」事を批判し、「我が自民党は違う!」と大見得を切っていたのだが・・・。
「憎き石破茂だけは、首相にさせてはならない!」という安倍晋三首相&麻生太郎財務大臣の強い意向を受け、「石破氏は一般党員からの人気が高いので、“原則として”自民党の国会議員の投票だけで行おう。」という動きになっている自民党総裁選。「新型コロナウイルス感染症の拡大等、政治空白を作らない為にも、迅速に選挙を行わなければならない。だから、原則として自民党の国会議員の投票だけで決める。」という表向きの理由を信じているのは、相当に御目出度い人と言わざるを得ないだろう。
猛烈な“石破潰し”の中で“次の首相”の有力候補となったのが菅官房長官だが、状況は自身が強烈に批判した9年前の民主党代表選挙と全く変わらない。国民不在で、派閥の論理だけで動いているのだから、正に密室政治だ。
9年前に自身が批判した状況を、今は自身が問題無く受け容れている。そんな矛盾を昨日、記者が菅官房長官に質問した所、「其れ其れの政党で決めているルールに基づいて、行うべきで在ろうと思います。」とだけ、平然と言い放った菅官房長官。「其れ其れの政党で決めているルールに基づいて行えば、全く問題無い。」という事らしい。だったら、「民主党の代表選も、党のルールで行ったのだから、全く問題無い。」という事になるだろうに。流石「不都合な質問に対しては、『問題在りません。』、『大丈夫です。』といった全く根拠を示さない“質問打ち切りフレーズ”。」を十八番とする御仁だ。こんな訳の判らない発言に反論しない記者達というのも、本当に情けないと思う。
話は変わるが、1940年代~1960年代、大野伴睦氏という政治家が居た。獺みたいな顔をした人で、自民党副総裁を務めた事も在る大実力者だ。「義理や人情を大事にした人物。」としても知られているのだが、岸信介氏が首相だった時、「(当時主流派だった)大野派を岸内閣に協力して貰えれば、“次の首相”に貴方を据える。」と岸首相から持ち掛けられ、実際に念書も取り交わした。岸首相の約束を信じ、大野氏は自派閥を纏め、岸内閣に全面協力したのだが、結局、岸首相は約束を反故にし、大野氏が首相になる事は無かった。義理と人情を大事にした大野氏からすれば信じられない裏切りだろうが、後に岸首相は「床の間(=首相の座)に、肥溜め(=大野氏)を置ける訳が無い。」と言ったという話も在る。事実ならば、酷い話だ。
1987年11月、中曽根康弘首相の“後継争い”をしていた安倍晋太郎氏と宮澤喜一氏、そして竹下登氏の3人。「次の首相には、安倍氏がなるのではないか。」という話も在ったが、結局は中曽根首相の“裁定”により、次の首相となった。其の際、「次の首相は、君だから。」と中曽根&竹下両氏から、安倍氏は言われたという話が在る。だが、竹下氏に“先”を譲り、病に倒れた安倍氏が、首相になる事は無かった。
大嫌いな石破氏を首相にさせたくない安倍首相は、自分の言う事を聞く岸田文雄政調会長を屡々持ち上げ、首相の座を彼に禅譲する事を匂わせて来た。生真面目そうな岸田政調会長は、そんな安倍首相の匂わしを信じ込み、明らかに意に沿わない安倍首相の言動にも、尻尾を振り続けて来た。
そういう優柔不断さが彼の駄目な所でも在るのだけれど、人としては嫌いになれないタイプの人物なので、「散々安倍首相に利用された挙句、“約束”を反故にされて、ポイ捨てされるのは目に見えているのになあ。」と心配していた。「幼い頃から父・晋太郎氏に『御前は、政治家に必要な“情”が無い。だから、政治家になってはいけない。』と言われ続けて来た安倍首相。」に情を理解し様も無く、又、母方の祖父・岸信介元首相がした裏切り、そして父・晋太郎氏がされた裏切りを知っているだけに、「騙される奴が馬鹿。」という“政治の世界の常識”を忘れる訳が無いので。
案の定、安倍首相は次の首相として岸田政調会長の名前を挙げる事は無く、菅官房長官支持に回った様だ。梯子を外された岸田政調会長は、“間抜けなピエロ”と化してしまった。
同じサラブレッドの世襲議員でも、世間を知ったお坊ちゃんと、世間知らずのお坊ちゃんの違いが出たという事でしょうか。
大野伴睦・・・懐かしい名前が出ましたね。
確かに大物政治家だったようですが、私には「政治圧力で東海道新幹線に利用客の少ない岐阜羽島駅を作らせた、地元利益誘導の政治家」というイメージしかありません。
確かに「肥溜め政治家」は当たらずとも遠からず。
彼を首相にしていたら安倍晋三氏以上に政治を私物化し、歴史に汚点を残していたかも。
同じサラブレッドの世襲政治家でも、執念深さ&底意地の悪さを感じる安倍首相に対し、岸田政調会長の場合は良くも悪くも“御人好し”という感じが在り、今回の“騙し討ち”には気の毒さを感じてしまう。
大野伴睦氏、自分の場合はリアル・タイムでの記憶が全く無いので、専ら読み漁った文献による知識しか無いのですが、利益誘導型の政治家というのは確かに在った様ですね。自分の中では、田中角栄元首相と似たイメージを持っています。
首相たる者、国家&国益を最優先して動かなければいけない。でも、自身の選挙区を疎かにすれば、選挙が苦しくなる。其の兼ね合いが難しくは在りますが、選挙制度を変えてでも、利益誘導型の政治家が生まれ難い土壌を作って欲しいものです。