2月10日付け東京新聞(朝刊)に、「大地震 電気で防ぐ」という記事が載っていた。「地中通電によって小さな地震を人為的に誘発させ、エネルギーを少しづつ発散させる事で、巨大地震の発生を防ごう。」という目論見に付いての紹介だ。東海大学の地震予知研究センター長・長尾年恭氏等国際グループが、中央アジアの旧ソ連キルギスで、こうした「地震制御」の研究を続けている。
2005年に行われた「愛・地球博(愛知万博)」でキルギスの展示を見学した長尾氏は、「ソ連時代、科学アカデミーの科学者が1983年から1990年に掛けて、キルギスの首都ビシュケク郊外の施設で、地中に大電流を流し、地震を誘発する実験を行っていた。」事を知った。独自の技術で大容量の「MHD(電磁流体力学)発電機」を製造し、大電流を起こして、潜水艦との交信や宇宙空間での戦闘に用いようとしていたと言う。
「第三次世界大戦の勃発」を想定したキルギスは、地上の通信手段が経たれた場合に備え、地中でモールス信号を送る実験をしていたそうで、其の副産物が「地震の誘発」。軍事技術という事で当時は極秘扱いだったが、ソ連崩壊後、実験の文献は公開されていた。唯、ロシア語で書かれた物しか無く、科学者の間でも長く話題に上がらなかった。
其の後の地震誘発研究では、「6千~1万アンペアを通電した翌日から数日間、小規模の地震の発生回数が増えた。」そうだ。通電による“刺激”が引き金となって、地震が誘発されたと推測される。
「地殻変動」のエネルギーを人為的に少しづつ解放させる事で、大地震が防げるというのは素晴らしい話だが、事はそう簡単では無いらしい。軍事目的で実験していた当時でも、1回の通電に約3百万円が掛かっていた。現在の実験では、市販の商用発電機で、以前の10~20分の1の6百~8百万アンペアの電流を月曜日から金曜日迄流しているが、「小規模の通電では地震の全エネルギーを解放する事は難しい。」(長尾氏)からだ。
地震の全エネルギーを解放する事は難しいけれど、「でも、巨大地震の発生を先送りする事は可能かもしれない。其の間に防災対策を進められれば、其れだけでも意義は在る。」とする一方、「最も恐ろしいのが、通電によって巨大地震を誘発してしまう危険性です。」と語る長尾氏。「先ずは充分なデータ収集が必要で、成果を出すには20~30年は掛かるだろう。」とも。