元来、新しい物好きな面が在るので、ブログのテンプレートは毎月チェンジする様にしているのだが、12月に入って変えたばかりのテンプレートを、僅か1週間強で変更してしまった。と言うのも、敬愛して已まない手塚治虫氏の作品「ブラック・ジャック」のテンプレートが新たに追加されていたからだ。
「シュマリ」や「きりひと賛歌」、「アドルフに告ぐ」等、大好きな手塚作品は枚挙に遑が無いのだが、「ブラック・ジャック」も当然その中に含まれている。天才的な外科手術の腕を持つ一方で、法外な報酬を要求する無免許医のブラック・ジャック(間黒男)を主人公にしたこの漫画に付いては、改めて説明するのも無意味な程良く知られた存在だと思う。どのストーリーも心に残る素晴らしさなのだが、その一つに「古和医院」という話が在る。
********************************
[古和医院]
田舎の或る村で、ブラック・ジャックはその村のたった一人の医師である古和医院長と出遭う。無医村だったこの村で、長きに亘って懇切丁寧に患者を診て来た彼は、村民から親しまれ且つ尊敬されている存在だった。
しかし、一人の少女の容態が急変した事で、彼は右往左往し始める。実は、彼もブラック・ジャックと同様に無免許医で、尚且つオペの経験が皆無だったのだ。或る事から、彼が同じ無免許医で在る事を知ったブラック・ジャックだったが、村民から親しみと尊敬の念を持たれている彼に心を打たれ、騙された振りをしながらオペの手順を彼に教える。
手術を終えた彼に、ブラック・ジャックは「私と同じ無免許医だが、先生は立派だ。」と語り、去って行く。そして1年後・・・。
街中でブラック・ジャックは古和先生とバッタリ出遭う。学生帽を被った彼は、医学をきちんと勉強すべく医大に入学して、通っている最中だった。「50の手習いですよ。」と柔和な笑顔を残して、彼は街頭へ消えて行くのだった。
********************************
何度読んでもジーンと来る話なのだが、この話を取り上げたのには訳が在る。先日、医師免許が無いのにも拘わらず、約8年半にも亘って病院等に勤務、患者の診察をしていた偽医師(33歳)が、医師法違反(無資格医業)で逮捕された事件が在ったからだ。
最初にこのニュースを耳にした時は、「戦後のドサクサに紛れてならいざ知らず、良くぞこの時代にそんな長期間ばれなかったなあ。」と驚いてしまった。と同時に、「雇い入れた病院では、医師免許の確認をしなかったのだろうか?」という疑問が湧いて来た。そんな折、先週の新聞でこの事件の特集が組まれていた。
今回の容疑者Aは約8年半に亘って、20ヶ所以上の医療機関を渡り歩き、最近では約2千万円の年収を得ていたという。「慶応大学医学部や北京大学医学部を卒業した。」とか、「横浜ベイスターズやロサンゼルス・ドジャースの医療スタッフを務めていた。」等と吹聴していた彼だったが、実際には定時制高校中退の無免許医だった。とはいうものの、Aが勤務していた病院近くの薬局の薬剤師が、「症状に合わない薬が処方されれば、薬剤師の私達にも直ぐ変だと判るのだが、そんな事は一度も無かった。8年以上も偽医師を続けられるなんて・・・。」と絶句した様に、彼には医療上のトラブルも無かった上に、患者からの評判も極めて高かったのだとか。
厚生労働省は医療機関に対し、医師を採用する際には医師免許の原本と大学の卒業証明書で確認する様にとの通知を出しているそうなのだが、Aは医療機関に就する際、医師免許のコピーと慶応大学医学部卒と記された履歴書を提出していただけだった。医師免許には各医師に割り当てられた「医籍番号」が記されているが、Aは実在する女性医師の番号が記された免許を偽造&利用しており、コピーだった為に偽造がばれなかったという。(原本には透かしが入っているので、原本の偽造は不可能との事。)今回、事件として発覚したのは、勤務先の医療機関がAに対し、医師免許の原本提出を求めたものの、彼が応じなかった事からだとか。
医学的知識も無い人間が、約8年半も良くばれなかったなあと思うのだが、Aは1997年から1年間、都立広尾病院で「見学生」をしていた事が明らかになっている。見学生は海外で医師免許を取得する予定の医学部在籍者&卒業生が対象で、医師に付いて、手術を含む医療現場を見学する制度。医療行為は出来ず無給、病院との雇用関係も無いという事なのだが、当時のAは「中国の大学で医学を履修した。」と語り、同病院の担当者も「日本の大学の医学部相当と判断して受け容れた。履修証明書も持っていた”様だ”。」と今回の事件発覚を受けて説明している。この時の経験を”悪用”した可能性が高い。
そして、長期に亘って偽医師を演じて来た事に対して、2人の人物が次の様に証言している。
********************************
[富家孝氏(医師・医療ジャーナリスト)]
「昔、軍隊の衛生兵は医師よりも上手かった。問診して話をするだけなら、偽医師でもばれない。偽医師は人柄が良くて、口が上手く、技術が良いのが基本。そうじゃないと、直ぐばれるから。普通の医師は面倒臭いから、其処迄親切ではない。」
[水野肇氏(医事評論家)]
「或る程度の知識が在れば、出来てしまう分野は在る。患者の七割は『風邪ひき、腹痛、二日酔い、切り傷』と言われていて、これ等は自然に治るから偽医師でもばれない事が在る。」
********************************
真面目に勤務している医師達にとっては、今回の事件は憤慨の思いしかないだろう。*1唯、偽医師である事がばれない秘訣が、本物の医師よりも親切というのは何とも皮肉に思える。
*1 患者の為に必死で取り組んでいる医師は少なくないと思っている。だからこそ、「兎の解剖を、冗談でネット公開していた医学部生達」のニュースを目にするとガッカリしてしまう。倫理観の欠如というよりも、一般社会との温度差を認識する能力が欠如しているのではないかと思ってしまう。
「シュマリ」や「きりひと賛歌」、「アドルフに告ぐ」等、大好きな手塚作品は枚挙に遑が無いのだが、「ブラック・ジャック」も当然その中に含まれている。天才的な外科手術の腕を持つ一方で、法外な報酬を要求する無免許医のブラック・ジャック(間黒男)を主人公にしたこの漫画に付いては、改めて説明するのも無意味な程良く知られた存在だと思う。どのストーリーも心に残る素晴らしさなのだが、その一つに「古和医院」という話が在る。
********************************
[古和医院]
田舎の或る村で、ブラック・ジャックはその村のたった一人の医師である古和医院長と出遭う。無医村だったこの村で、長きに亘って懇切丁寧に患者を診て来た彼は、村民から親しまれ且つ尊敬されている存在だった。
しかし、一人の少女の容態が急変した事で、彼は右往左往し始める。実は、彼もブラック・ジャックと同様に無免許医で、尚且つオペの経験が皆無だったのだ。或る事から、彼が同じ無免許医で在る事を知ったブラック・ジャックだったが、村民から親しみと尊敬の念を持たれている彼に心を打たれ、騙された振りをしながらオペの手順を彼に教える。
手術を終えた彼に、ブラック・ジャックは「私と同じ無免許医だが、先生は立派だ。」と語り、去って行く。そして1年後・・・。
街中でブラック・ジャックは古和先生とバッタリ出遭う。学生帽を被った彼は、医学をきちんと勉強すべく医大に入学して、通っている最中だった。「50の手習いですよ。」と柔和な笑顔を残して、彼は街頭へ消えて行くのだった。
********************************
何度読んでもジーンと来る話なのだが、この話を取り上げたのには訳が在る。先日、医師免許が無いのにも拘わらず、約8年半にも亘って病院等に勤務、患者の診察をしていた偽医師(33歳)が、医師法違反(無資格医業)で逮捕された事件が在ったからだ。
最初にこのニュースを耳にした時は、「戦後のドサクサに紛れてならいざ知らず、良くぞこの時代にそんな長期間ばれなかったなあ。」と驚いてしまった。と同時に、「雇い入れた病院では、医師免許の確認をしなかったのだろうか?」という疑問が湧いて来た。そんな折、先週の新聞でこの事件の特集が組まれていた。
今回の容疑者Aは約8年半に亘って、20ヶ所以上の医療機関を渡り歩き、最近では約2千万円の年収を得ていたという。「慶応大学医学部や北京大学医学部を卒業した。」とか、「横浜ベイスターズやロサンゼルス・ドジャースの医療スタッフを務めていた。」等と吹聴していた彼だったが、実際には定時制高校中退の無免許医だった。とはいうものの、Aが勤務していた病院近くの薬局の薬剤師が、「症状に合わない薬が処方されれば、薬剤師の私達にも直ぐ変だと判るのだが、そんな事は一度も無かった。8年以上も偽医師を続けられるなんて・・・。」と絶句した様に、彼には医療上のトラブルも無かった上に、患者からの評判も極めて高かったのだとか。
厚生労働省は医療機関に対し、医師を採用する際には医師免許の原本と大学の卒業証明書で確認する様にとの通知を出しているそうなのだが、Aは医療機関に就する際、医師免許のコピーと慶応大学医学部卒と記された履歴書を提出していただけだった。医師免許には各医師に割り当てられた「医籍番号」が記されているが、Aは実在する女性医師の番号が記された免許を偽造&利用しており、コピーだった為に偽造がばれなかったという。(原本には透かしが入っているので、原本の偽造は不可能との事。)今回、事件として発覚したのは、勤務先の医療機関がAに対し、医師免許の原本提出を求めたものの、彼が応じなかった事からだとか。
医学的知識も無い人間が、約8年半も良くばれなかったなあと思うのだが、Aは1997年から1年間、都立広尾病院で「見学生」をしていた事が明らかになっている。見学生は海外で医師免許を取得する予定の医学部在籍者&卒業生が対象で、医師に付いて、手術を含む医療現場を見学する制度。医療行為は出来ず無給、病院との雇用関係も無いという事なのだが、当時のAは「中国の大学で医学を履修した。」と語り、同病院の担当者も「日本の大学の医学部相当と判断して受け容れた。履修証明書も持っていた”様だ”。」と今回の事件発覚を受けて説明している。この時の経験を”悪用”した可能性が高い。
そして、長期に亘って偽医師を演じて来た事に対して、2人の人物が次の様に証言している。
********************************
[富家孝氏(医師・医療ジャーナリスト)]
「昔、軍隊の衛生兵は医師よりも上手かった。問診して話をするだけなら、偽医師でもばれない。偽医師は人柄が良くて、口が上手く、技術が良いのが基本。そうじゃないと、直ぐばれるから。普通の医師は面倒臭いから、其処迄親切ではない。」
[水野肇氏(医事評論家)]
「或る程度の知識が在れば、出来てしまう分野は在る。患者の七割は『風邪ひき、腹痛、二日酔い、切り傷』と言われていて、これ等は自然に治るから偽医師でもばれない事が在る。」
********************************
真面目に勤務している医師達にとっては、今回の事件は憤慨の思いしかないだろう。*1唯、偽医師である事がばれない秘訣が、本物の医師よりも親切というのは何とも皮肉に思える。
*1 患者の為に必死で取り組んでいる医師は少なくないと思っている。だからこそ、「兎の解剖を、冗談でネット公開していた医学部生達」のニュースを目にするとガッカリしてしまう。倫理観の欠如というよりも、一般社会との温度差を認識する能力が欠如しているのではないかと思ってしまう。
無免許がばれないように親切、というのはなんだか悲しいですが、実際最近の御医者さんは結構冷たい人が多いと思います。看護婦さんもそうですが・・・。少しの痛みでも患者にとっては辛い事。「たいしたことないじゃない」という気持ちで接していれば、すぐに患者に伝わるんですよね。一人一人、その痛みを感じて接してくれる看護婦・医者が増えて欲しいです。
ウサギの解剖・・については、私はかなりショックを受けました。私は自分の献体登録をしているので、自分の解剖も面白半分にされては、自分の意思が無視される気がします。医学を目指す、本当の意味をしっかり考えて勉強して欲しいですね。
辛いとき、苦しい時、お医者さまや看護士さんには、嘘でもいいから、「分かりますよ、大丈夫ですよ」といっていただきたいものです。私の理想の赤ひげ先生、エンタープライズ号のドクターマッコイ、榊原伊織先生・・皆さん、患者さんの痛み、苦しみを我が事のように考え、熱くなり、奔走される方ばかりでした。
仁(人を愛する気持ち)の心を持てぬお医者さまには、職を辞していただきたいものです〆