ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「明日の空」

2010年06月26日 | 書籍関連
*****************************************
両親は日本人乍らアメリカで生まれ育った真辺栄美は、高校3年にして初めて日本で暮らす事に。日本の生活スタイルに付いて父親から色々聞いていたが、「日本は平等社会だ。」と執拗に強調した上で彼が口にしたのは次の事だった。

「いいか、栄美。日本の学校に入ったら、アメリカの話はなるべくしないようにするんだ。もちろん、訊かれたら答えてもいい。でも、自分から『アメリカではこうだった。』みたいなことは、絶対に言っちゃ駄目だ。いいね。」

日本人は、みんな一緒なのが好きなんだ。ひとりだけ目立ったりすると、いじめられる。個人よりも集団を重んじる社会なんだ。それは単に風習の問題だから、アメリカの方が進んでるとか日本が遅れてるとか、そういう話じゃない。違う風習の社会に来たからには、それにあわせなきゃいけないってことだよ。

「アメリカと日本の違いを指摘すれば、間違いなく目立つ。」

父親の助言に不安を感じ乍ら投降した栄美だったが、クラスメートは明るく親切で、彼女は新しい生活を楽しみ始める。だが一つ奇妙な事が。「スポーツ万能にして頭脳明晰、優しくてイケメン。」という非の打ち所が無い様な男子・飛鳥部と距離が縮まり、デートの約束をする様になるが、何故か何時も横槍が入っ擦れ違いになるのだ。「一体誰が、何のに?」と訝しむ栄美。やがて彼女は、自分に向いた悪意と善意に気付く事に・・・。
*****************************************

貫井徳郎氏の小説「明日の空」は「PART1 In the high school」、「PART2 At Roppongi」、そして「PART3 In the university」の3章から構成されている。上記した梗概は「PART1 In the high school」の物だが、「PART2 At Roppongi」を読み始めると「あれ?」と面食らう読者が多いに違い無い。と言うのも、PART1とは全く無関係な話が延々と記されているから。登場人物も描かれる場所もPART1とは全く重なり合わないので、「これは別小説なのか?」と自分は思ってしまったのだが、「PART3 In the university」に入ると、実は全てが上手く重なり合っている事に気付かされる。これが第一のサプライズ

そして第二のサプライズは、或る人物の“意外な正体”。ネタバレになってしまうので詳しくは触れないが、「その人物に関する記述から『この人は~に違いない。』という思い込みが読者の中に自ずと出来上がり、その思い込みの誤りが最後に提示されて、『うわー、そうだったのか!」と驚かされる。」感覚を味わえるだろう。

様々な横槍を入れる人物に関しては、恐らく多くが「この人だろうな。」と気付くに違いない。しかし、その具体的な理由には思い到らないだろう。根深い悪意等、「人間の心の闇」を描き上げる事で定評の在る貫井氏。この作品でも、その筆力を充分に発揮している。、読後に“重苦しい暗さ”を残す作品が多い彼だけれど、この作品は“前向きなライトさ”が在り、異質の作品と言えば異質かも。

総合評価は星3.5個

コメント    この記事についてブログを書く
« 現在の社名は? | トップ | 「好い加減にしてくれ!」と... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。