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病院で起きた点滴死傷事件。入院中の4人の幼い子供達にインスリンが混入され、2人が殺された。逮捕されたのは、生き残った女児の母親・小南野々花(こなみ ののか)。人権派の大物弁護士等と共に、若手弁護士の伊豆原柊平(いずはら ゆうへい)は勝算の無い裁判に挑む。
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雫井脩介氏の小説「霧をはらう」は、と或る病院で発生した点滴死傷事件の謎を解く物語。「混入されてはいけない物が混入され、其の結果として複数の死傷者が発生。」、「死傷事件の犯人として疑われているにも拘らず、周りを苛立たせる能天気な言動を続ける女性。」といった点から、「和歌山毒物カレー事件」や「関西青酸連続死事件」を思い起こさせる内容。空気が読めない言動を繰り返す小南野々花には、読んでいて苛々感が募る。
事件の発生状況を知れば知る程、「野々花が犯人。」という疑いが強まって行く。そんな中、若手弁護士の伊豆原は、“一寸した違和感が元となった疑問点”を積み上げて行き、彼女が無罪で在る事を立証し様とする。
点滴死傷事件の犯人として母が捕まり、周りから冷たい扱いを受け、社会的に孤立して行く姉妹。そして、そんな彼女達に救いの手を差し伸べる伊豆原。出来上がった偏見を取り除いて行く難しさを、強く感じる。(自分も実際、野々花の能天気な言動に、偏見を持ってしまった部分が在るし。)
真犯人の察しは、比較的早い段階で付いた。“不自然とも思われる状況”が、何度か記されていたので。でも、動機が判らず、明らかとなった際に「動機として弱いんじゃないなかな。」という思いが。又、其の人物に助力した人間の気持ちは判らないでも無いけれど、「自身の人生を全否定する様な事を、果たしてするかなあ?」という疑問も。
色んな面での“動機”に完全納得出来ず、もやもや感が残る。総合評価は、星3つとする。