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17歳の吉岡誠(よしおか・まこと)、12歳の正二(しょうじ)、そして5歳の香(かおり)。彼等は、東京北部の3つの区が重なり合った地域に住む3人兄弟妹。
1年前、父・信道(のぶみち)は多額の借金を抱え、突然姿を消してしまった。其の直後、母・愛子(あいこ)はアパートの窓から発作的に飛び出して大怪我を負い、意識不明の寝た切りになってしまう。以来、兄弟妹の日々は一変した。
ロックが好きだった長男の誠は、音が聞こえなくなった。父の借金を返済し乍ら、家族を養う為に高校を中退し、早朝は野菜市場、昼から晩に掛けては中華料理屋、深夜は覚醒剤の“アジツケ”の内職をしている。暴力団組織の斉木(さいき)には引っ越しの手伝いをさせられ、高平(たかひら)には密入国者を海から引き揚げる作業に駆り出され、更に内職のノルマを増やされ、疲れ果てる誠。
絵を描くのが得意で甘えん坊だった、小学校6年生の次男・正二。事件後、風景から一切の色が消えてしまった。寝た切りの母の御襁褓や体位を変えるのは、正二の役目だ。だが自分の洗濯や入浴は儘ならず、通っている小学校でも「臭い!」と言われ、クラス全員から無視されている。
見えない物が見える長女の香は、朝8時、兄の正二に連れられて幼稚園に通園するが、女子学生専用アパート前の電信柱で必ず足を止める。理由は、正二にも判らない。物の臭いを感じられなくなってしまった香だが、
自宅の押し入れの前では「臭い。」と呟く。
背負い切れない程の現実が伸し掛かった仔等は、怒りや哀しみを押し殺し、生き延びる為、心を閉ざして来た。
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直木賞作家の天童荒太氏が、25歳の時に初めて書いた短編小説が、今回読了した「歓喜の仔」の元になっているのだそうだ。希望も夢も無く、社会の底辺で生きなければならない3人の仔達。児童虐待等の家庭的な問題から児童養護施設で育った3人の主人公の姿を描いた小説「永遠の仔」は天童氏が著し、ベスト・セラーを記録した名作だが、其れと似た雰囲気は在る。
唯、「永遠の仔」がストーリー的には読み易かったのに対し、「歓喜の仔」は読み進めるのにしんどさを覚えた。現実から逃避すべく、3人は心の中に空想世界を作り上げて行くのだが、現実世界と互い違いに入り込ん来るのには、正直煩わしさを感じたので。彼等の「深層心理」を描かんが為の描写なのだろうが、もっと違う形は無かったか?
バラバラに生きている感じの在った3人が、最後に見せた姿にはグッと来る物が在ったけれど、彼等の今後を考えると、物語の世界とはいえ、心が重くなる。程度の差は在るだろうが、現実にこういった日々を送らざるを得ない仔達は、世界に多く居るのだ。
「此の小説に、どういう評価を下すか?」は、人によって大きく分かれる様な気がする。深層心理を奥深く描いた作品が好きな人なら、高い評価を下すのだろうが、個人的には「うーん・・・。」という感じで、総合評価は星3つとする。