ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「アキラとあきら」

2017年08月17日 | 書籍関連

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零細工場の息子・山崎瑛(やまざき あきら)と大手海運会社「東海郵船」の御曹司・階堂彬(かいどう あきら)。生まれも育ちも大きく異なる彼等は、互いに宿命を背負い、自らの運命に抗って生きて来た。

 

軈て2人は出会い、其れ其れの人生が交差した時、嘗て無い過酷試練降り掛かる逆境に立ち向かう“2人のアキラ”の、人生を賭した闘いが始まった。

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半沢直樹シリーズ」や「下町ロケットシリーズ」等を生み出した作家池井戸潤氏が、作家になる前の7年間、三菱銀行で働いていた事は良く知られている。企業融資最前線に身を置いていた彼は、企業や銀行の良い所も悪い所も見て来た様で、其の経験が彼の作品にリアルさを与えている。

 

今回読了した小説「アキラとあきら」は、単行本という形を経る事無く、今年の5月に文庫本として上梓された。此の作品は2006年から2009年に掛けて文芸雑誌問題小説」に連載されていたという事なので、連載終了から8年経って、漸く上梓された事になる。詰まり、此の作品は「半沢直樹シリーズ」や「下町ロケット」等で、池井戸氏に注目が集まる以前に書かれていた訳だ。

 

2人のアキラが登場する「アキラとあきら」。金持ちの息子・階堂彬と貧乏人の息子・山崎瑛という、余りに対照的な2人の少年期から青年期を描いている。巻末の解説で記されている様に、彼等が生まれたのは恐らく1962年前後で、1963年生まれの池井戸氏と世代。描かれているのは1970年代前半から2000年代後半と思われる約30年間で、高度経済成長の終盤に始まり、バブル期を経て、バブル崩壊後の“失われた20年”の半ば辺りが舞台という事になる。

 

同じ「アキラ」というの名前を持つ2人、そして片方は金持ちの息子で、もう片方は貧乏人の息子。こういう設定から想像するのは小説「王子と乞食」で在り、「金持ちの息子はとことんな奴で、貧乏人の息子を見下し、貧乏人の息子をいびり倒すという設定かな。」と読む前にはイメージしていた。

 

然し、読み始めると、自分の予想と全く違っていた事に気付かされる。2人のアキラは非常に誠実で、実に良い奴等なのだ。必死で行き様としている者達への眼差しは温かく、彼等を助けるべく奔走する。そんな2人に、どっぷりと感情移入してしまっている自分がた。

 

2人が良い奴な分、嫌な悪役が次々に登場する。唾棄する程に嫌な奴等なので、ストーリーの魅力は増している。こういった設定、池井戸氏は本当い上手い企業融資に関する記述も、実に生々しくて興味深い。

 

2人のアキラが最初に“出遭う”シーンも印象的だけれど、“アキラ”が子供の頃に出会った人達との“再会”も又、非常に印象に残る。特に或る2人との再会(正確に言えば、1人とは直接会っていないのだけれど。)には、グッと来る物が在った。恥ずかしい話だけれど、読了する迄に2度泣いてしまい、其の1度が直接は在っていない人物との再会シーンだった。

 

弱い立場の人達への温かい眼差しが感じられるのが、池井戸作品の特徴。「アキラとあきら」も同様だ。次々と主人公を襲うピンチにドキドキさせられ、最後は「良かったなあ・・・。」という思いにさせられる。だから、池井戸作品は広く愛されるのだろう。

 

此の作品を読まないというのは、本当に勿体無い!」と断言する。是非読んで欲しい。

 

総合評価は、星5つとする。


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