先週の土曜日から一斉公開された映画「犬神家の一族」。今年の1月に「金田一さん事件です!」という記事でこの作品の事を取り上げて以降、一日千秋の思いでその公開を待ち望んでいた。
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昭和22年、信州の大財閥で在る犬神製薬の創業者・犬神佐兵衛(仲代達矢氏)がその生涯を終えた。その莫大な財産は誰が受け継ぐのか?それは佐兵衛が遺言状に記し、顧問弁護士の古舘恭三(中村敦夫氏)に預けられていた。遺言状の公開を迫る遺族達に対し、古館は指定された血縁者全員が揃う迄は公開出来ない事になっていると突っ撥ねる。
その全員とは松子(富司純子さん)、梅子(松坂慶子さん)、竹子(萬田久子さん)という佐兵衛の腹違いの3人娘に、竹子の夫・寅之助(岸部一徳氏)、その息子の佐武(葛山信吾氏)と娘の小夜子(奥菜恵さん)、梅子の夫・幸吉(螢雪次朗氏)、その息子の佐智(池内万作氏)、佐兵衛の恩人の孫娘で在り、幼くして両親を失った事から犬神家に引き取られた野々宮珠世(松嶋菜々子さん)、そして松子の一人息子で在り、戦地に送られたまま戻らない佐清(尾上菊之助氏)だった。所属する部隊の全滅が伝えられていた佐清だったが、戦地から復員するとの報がもたらされる。
古舘法律事務所で助手を務める若林久男(嶋田豪氏)は、残された遺言状が犬神一族に大きな災いをもたらす事を予期し、私立探偵の金田一耕助(石坂浩二氏)に調査を依頼するが、金田一と会う直前に何者かによって殺害されてしまう。
やがて松子と共に犬神家に戻って来た佐清の顔は、不気味なマスクで覆い被されていた。戦地で顔に醜い傷を負った為という事だった。全員が揃った中で古舘によって遺言状の中身が公開される。それは「佐清、佐武、佐智の何れかとの結婚を条件に、犬神家の全財産を珠世に譲渡する。」等、”肉親達”にとっては絶対に許し難い驚愕の内容。
莫大な財産を少しでも多く分捕りたいと考える肉親達が騒然とする中、若林が危惧した通り、凄惨な殺人事件が次々と起こって行く・・・。
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市川崑監督の紡ぎ出す映像が堪らなく好き。カット割り、照明の当て方、小気味良い映像の流れ等々、全てが組み合わさっての映像美には天才性を感じてしまう。30年前に彼と石坂氏のコンビで製作された「犬神家の一族」も映像美が充分堪能出来る作品の一つなので、今回同コンビが再度組んでリメイクされたこの作品には、嫌が上にも期待が高まっていた。
「古い町並みを金田一が闊歩する冒頭のシーン。」*1、「作品タイトルと共に流れ始める『愛のバラード』。」(大野雄二氏が生み出した名曲の一つ!)等、台詞の言い回し(言い争いのシーンで、意図的に声を被せ合う手法もGood!)や場面設定はほぼ同じなのだが、それはそれで”味”を感じさせてしまうのが巨匠の巨匠足り得る所。名作は時空を越えても名作なのだ。
大山神官役の大滝秀治氏及び等々力署長役の加藤武氏が旧作と同じ役で、又、旧作では竹子役の三條美紀さんが松子の母・お園役、梅子役を演じておられた草笛光子さんが今回は琴の師匠・香琴役*2で登場される等、古くからの金田一シリーズ・ファンには涙モノの心憎いキャスティング。特に等々力署長と言えばこの名台詞と言われる「よし判った!犯人は○○だ!」が、三度も観られたのには欣喜雀躍。場内の客も心得ている様で、このシーンでは毎回笑い声が起こっていた。
旧作とほぼ同じ内容ながら、旧作よりもおどろおどろしさや戦慄感を覚えなかったのは、恐らく当時よりも時代そのものが殺伐として乾き切ってしまった為なのだろう。
「モノクロ画面の入れ込みの絶妙さ」、「赤という色彩が最大限に映える術を知り尽している。」というのが市川監督の映像美の極致と捉えているのだが、この作品でも余す所無く発揮されていた様に思う。
勿論残念に思う所が無かった訳では無い。松子役の富司純子さんの熱演は買うものの(煙管を手にした際、又、髪をすっと撫で上げる際等、その所作の美しさが際立っていた。)、旧作で同役の高峰三枝子さんが時折垣間見せた、背筋がぞぞっとさせられる様な狂気を秘めた演じっぷり(こちらで旧作の予告編が見られる。)には残念ながら及ばなかった気がする。珠世役の松嶋奈々子さんもその美しさは光っていたが、演じ手としての力量は申し訳無いが「うーん。」という感じ。そして脇役とはいえ、那須ホテル主人役の三谷幸喜氏と柏屋の九平役(旧作で同役を務めた三木のり平氏の飄々とした演技は絶品!「社長シリーズ」の営業課長役といい、味わい深い役者の一人だった。)の林家木久蔵氏の抜擢は如何なものか?ファンの方にはこれ又申し訳無いのだが、あの演技の下手さ加減(佐智役の池内万作氏の演技も、個人的には少々疑問が。)には、それ迄のスムーズで心地良い流れが其処でぶった切られた感が在り、非常に残念だった。*3
金田一耕助も等々力署長も正直「老いたなあ。」という思いは在るが、それでも良く頑張っていたし、原作の持つ魅力も最大限に引き出されていた。そして何よりも、「市川監督健在なり!」を強く感じさせてくれたのが、自分にとっては最大の喜びだ。総合評価は星4つとしたい。
*1 那須ホテルの女中・はる(深田恭子さん)が金田一の言葉にムッとして部屋から出て行く際、ピシャッと閉めた襖にはるの着物の裾が挟まり、一寸してスッと裾が抜かれるシーンが在る。旧作では坂口良子さんがはる役を演じていたのだが、全く同じシーンが描かれていた。些細な事かもしれないが、市川監督の拘りが感じられて嬉しかった。
*2 旧作で香琴役を演じておられた岸田今日子さんが、17日に御亡くなりになっていた事が昨日報道された。存在感の在る個性的な女優の一人で、彼女が出演した作品は幾つもパッと頭に浮かぶが、何と言っても自分達の世代で言えばアニメ「ムーミン」でのムーミンの声だろう。あの声には真綿に包まれている様な安心感が在った。ドラマ「赤い運命」での大竹由美子役も忘れられない。前夫の仲谷昇氏も味の在る役者だったが、彼が亡くなられてほぼ1ヵ月後の死。享年76歳という事だが、魅力的な演技をもっと見せて欲しかった。残念で在る。合掌。
*3 佐武の生首や青沼静馬(尾上菊之助氏)の首無し死体(旧作が公開された当時、学校のプールで逆さまになって足を突き出す”佐清ごっこ”や、松子の台詞「佐清!マスクを取って見せておやり!」の真似が流行ったものだった。)だが、現代の技術を駆使すればもっとリアルな造形が可能だったのではなかろうか?それとも、作り物なのがバレバレだったのは、余りリアルに作り過ぎると”様々な点”で問題が在るという事なのだろうか?
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昭和22年、信州の大財閥で在る犬神製薬の創業者・犬神佐兵衛(仲代達矢氏)がその生涯を終えた。その莫大な財産は誰が受け継ぐのか?それは佐兵衛が遺言状に記し、顧問弁護士の古舘恭三(中村敦夫氏)に預けられていた。遺言状の公開を迫る遺族達に対し、古館は指定された血縁者全員が揃う迄は公開出来ない事になっていると突っ撥ねる。
その全員とは松子(富司純子さん)、梅子(松坂慶子さん)、竹子(萬田久子さん)という佐兵衛の腹違いの3人娘に、竹子の夫・寅之助(岸部一徳氏)、その息子の佐武(葛山信吾氏)と娘の小夜子(奥菜恵さん)、梅子の夫・幸吉(螢雪次朗氏)、その息子の佐智(池内万作氏)、佐兵衛の恩人の孫娘で在り、幼くして両親を失った事から犬神家に引き取られた野々宮珠世(松嶋菜々子さん)、そして松子の一人息子で在り、戦地に送られたまま戻らない佐清(尾上菊之助氏)だった。所属する部隊の全滅が伝えられていた佐清だったが、戦地から復員するとの報がもたらされる。
古舘法律事務所で助手を務める若林久男(嶋田豪氏)は、残された遺言状が犬神一族に大きな災いをもたらす事を予期し、私立探偵の金田一耕助(石坂浩二氏)に調査を依頼するが、金田一と会う直前に何者かによって殺害されてしまう。
やがて松子と共に犬神家に戻って来た佐清の顔は、不気味なマスクで覆い被されていた。戦地で顔に醜い傷を負った為という事だった。全員が揃った中で古舘によって遺言状の中身が公開される。それは「佐清、佐武、佐智の何れかとの結婚を条件に、犬神家の全財産を珠世に譲渡する。」等、”肉親達”にとっては絶対に許し難い驚愕の内容。
莫大な財産を少しでも多く分捕りたいと考える肉親達が騒然とする中、若林が危惧した通り、凄惨な殺人事件が次々と起こって行く・・・。
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市川崑監督の紡ぎ出す映像が堪らなく好き。カット割り、照明の当て方、小気味良い映像の流れ等々、全てが組み合わさっての映像美には天才性を感じてしまう。30年前に彼と石坂氏のコンビで製作された「犬神家の一族」も映像美が充分堪能出来る作品の一つなので、今回同コンビが再度組んでリメイクされたこの作品には、嫌が上にも期待が高まっていた。
「古い町並みを金田一が闊歩する冒頭のシーン。」*1、「作品タイトルと共に流れ始める『愛のバラード』。」(大野雄二氏が生み出した名曲の一つ!)等、台詞の言い回し(言い争いのシーンで、意図的に声を被せ合う手法もGood!)や場面設定はほぼ同じなのだが、それはそれで”味”を感じさせてしまうのが巨匠の巨匠足り得る所。名作は時空を越えても名作なのだ。
大山神官役の大滝秀治氏及び等々力署長役の加藤武氏が旧作と同じ役で、又、旧作では竹子役の三條美紀さんが松子の母・お園役、梅子役を演じておられた草笛光子さんが今回は琴の師匠・香琴役*2で登場される等、古くからの金田一シリーズ・ファンには涙モノの心憎いキャスティング。特に等々力署長と言えばこの名台詞と言われる「よし判った!犯人は○○だ!」が、三度も観られたのには欣喜雀躍。場内の客も心得ている様で、このシーンでは毎回笑い声が起こっていた。
旧作とほぼ同じ内容ながら、旧作よりもおどろおどろしさや戦慄感を覚えなかったのは、恐らく当時よりも時代そのものが殺伐として乾き切ってしまった為なのだろう。
「モノクロ画面の入れ込みの絶妙さ」、「赤という色彩が最大限に映える術を知り尽している。」というのが市川監督の映像美の極致と捉えているのだが、この作品でも余す所無く発揮されていた様に思う。
勿論残念に思う所が無かった訳では無い。松子役の富司純子さんの熱演は買うものの(煙管を手にした際、又、髪をすっと撫で上げる際等、その所作の美しさが際立っていた。)、旧作で同役の高峰三枝子さんが時折垣間見せた、背筋がぞぞっとさせられる様な狂気を秘めた演じっぷり(こちらで旧作の予告編が見られる。)には残念ながら及ばなかった気がする。珠世役の松嶋奈々子さんもその美しさは光っていたが、演じ手としての力量は申し訳無いが「うーん。」という感じ。そして脇役とはいえ、那須ホテル主人役の三谷幸喜氏と柏屋の九平役(旧作で同役を務めた三木のり平氏の飄々とした演技は絶品!「社長シリーズ」の営業課長役といい、味わい深い役者の一人だった。)の林家木久蔵氏の抜擢は如何なものか?ファンの方にはこれ又申し訳無いのだが、あの演技の下手さ加減(佐智役の池内万作氏の演技も、個人的には少々疑問が。)には、それ迄のスムーズで心地良い流れが其処でぶった切られた感が在り、非常に残念だった。*3
金田一耕助も等々力署長も正直「老いたなあ。」という思いは在るが、それでも良く頑張っていたし、原作の持つ魅力も最大限に引き出されていた。そして何よりも、「市川監督健在なり!」を強く感じさせてくれたのが、自分にとっては最大の喜びだ。総合評価は星4つとしたい。
*1 那須ホテルの女中・はる(深田恭子さん)が金田一の言葉にムッとして部屋から出て行く際、ピシャッと閉めた襖にはるの着物の裾が挟まり、一寸してスッと裾が抜かれるシーンが在る。旧作では坂口良子さんがはる役を演じていたのだが、全く同じシーンが描かれていた。些細な事かもしれないが、市川監督の拘りが感じられて嬉しかった。
*2 旧作で香琴役を演じておられた岸田今日子さんが、17日に御亡くなりになっていた事が昨日報道された。存在感の在る個性的な女優の一人で、彼女が出演した作品は幾つもパッと頭に浮かぶが、何と言っても自分達の世代で言えばアニメ「ムーミン」でのムーミンの声だろう。あの声には真綿に包まれている様な安心感が在った。ドラマ「赤い運命」での大竹由美子役も忘れられない。前夫の仲谷昇氏も味の在る役者だったが、彼が亡くなられてほぼ1ヵ月後の死。享年76歳という事だが、魅力的な演技をもっと見せて欲しかった。残念で在る。合掌。
*3 佐武の生首や青沼静馬(尾上菊之助氏)の首無し死体(旧作が公開された当時、学校のプールで逆さまになって足を突き出す”佐清ごっこ”や、松子の台詞「佐清!マスクを取って見せておやり!」の真似が流行ったものだった。)だが、現代の技術を駆使すればもっとリアルな造形が可能だったのではなかろうか?それとも、作り物なのがバレバレだったのは、余りリアルに作り過ぎると”様々な点”で問題が在るという事なのだろうか?
と言うか、横構作品そのものが色彩感あふれていて赤を感じさせるんですよね。
>当時よりも時代そのものが殺伐として乾き切ってしまった為なのだろう。
横構氏の作品は一時全く売れず、埋もれた状態になっていたのですが、それは出版当時は戦後すぐの殺伐とした時代でドロドロとした作風が受け入れられなかったからだと、そして、近年(私が小学生の頃・・近年違うやん・・)爆発的にヒットしたのは、安定した豊かな右肩上がりの時代に、ドロドロした人間関係が「新鮮」と受け入れられたからだ、作者本人が分析されていました。
そう言う意味ではこの作品が若い人に受ける世の中であって欲しいと祈るような気持ちで年の瀬を過ごしております。
o_sole_mio様もマヌケ様も誤解されていると言うか、買い被り過ぎですよ(笑)。自分は記憶力にも全く自信の無い、単なるおっさんですから。唯、市川監督の作品が大好きで(中には「火の鳥」の様な、御自身も認めている失敗作も在りますが。)、何度も見返しているが故に細かい部分を覚えているだけなんです。
セルフ・リメイクされた作品って余り記憶が無いですね。アルフレッド・ヒッチコック監督が嘗て製作した「暗殺者の家」という作品を、約20年後に「知りすぎていた男」というタイトルでセルフ・リメイクしたのを思い出す程度です。
そう言えば来年、大林宣彦監督がセルフ・リメイクした「転校生」が公開されるとの事。これも是非見てみたい作品です。
主役のみならず端役まで詳細に比較されるgiants-55さんの記憶力と観察力にはただただ感服です。前作から丁度30年の差がありますが、金田一耕助役の石坂浩二さんもそうですが、加藤武さんや大滝秀治さんが同じ役とはすごいですね。大滝秀治さんは最近CMでもいい味を出しており、「老いてなお盛ん」ですね。
男優&女優を問わず、容姿端麗だったり、演技が上手かったりという若手&中堅俳優は今でも居るのですが、残念ながら其処にプラス・アルファを感じさせる人が余り見掛けられないんですよね。それが強烈な個性だったり存在感だったりする訳ですが、岸田さんも画面に映っているだけで強烈な存在感を放たれている稀有な女優でした。「大奥」のナレーションも実に味わいが在り、あの作品が今でも多くの人の記憶に刻み込まれている大きな要因に彼女のナレーションが間違い無く在ったと思います。
今回の「犬神家の一族」、ネット上の評価は賛否ハッキリ分かれている様です。その理由は帆引様宛てのレスで上記させて戴きましたが、個人的には市川監督のあの映像美が見られただけで、かなりの満足感を得ました。へーちゃんも想像以上に良く走っていましたし(笑)。加藤武氏は心なしか声量が落ちた様に感じましたが、大滝秀治氏は旧作と余り変わっていないのが驚異的。味の在る役者をそれなりに配していただけに、一部の”素人演技”が余計に目立った気がします。
リメイク、どうでしたか?石坂浩二はちゃんと走っていましたでしょうか?
たしかに高峰三枝子のほうが「イヤな女」キャラに見え隠れする息子への愛など、迫力があるような気がしました。
先に観たのと、劇場鑑賞だったのがあるかもしれませんが、個人的にはリメイクのほうがたのしめました。後に観るほうは、どうしても比べてしまいますね。
TBありがとうございました。
「犬神家の一族」、賛否両論ハッキリ分かれている様です。マイナス評価としては「旧作のリメイクとはいえ、少しは新しい面が見られると期待していたのに、九分九厘同じ内容だったのが興醒め。」、「前半部が丁寧に描かれていた分、後半部(青沼菊乃&静馬母子の描かれ方等。)が端折られていたのが残念だった。」、「生首や死体が余りにも作り物という感じだった。」等。プラス評価としてはやはり市川監督の映像美を挙げているものが多い様です。概して旧作を見ていた人達にプラス評価が高い様な気がしました。
それとどうでも良い話なのですが、松嶋奈々子さんと奥菜恵さんが並んで歩くシーンでは、その身長差が余りにも在るのでビックリしました。他のブログでも書かれていましたが、本当に大人と子供位の差でした。
岸田さんが出ておられた「八つ墓村」は、渥美清氏が金田一を演じていた野村芳太郎監督の作品ですね。小川真由美さん演じる美也子が洞窟で狂気の表情を浮かべて辰弥(萩原健一氏)を追い回すシーンがとても怖かったです。
よさそうじゃん。でも個人的には、あの岸田さんが出ていた、八つ墓村をリメイクしてほしかったんだが・・・。同じく合掌。