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病院のベッドで目が覚めた男。自分が誰だか、此処が何処だか分判らない。一切の記憶が無い。こっそり病院を抜け出し、ふと見たTVのニュースに自分が映っていた。演説中に投石を受け、病院に運ばれている首相。そう、何と自分は、此の国の最高権力者だったのだ。そして、石を投げ付けられる程に、凄まじく国民に嫌われている。
部下らしき男が迎えに来て、官邸に連れて行かれる。 「貴方は、第127代内閣総理大臣・黒田啓介(中井貴一氏)。国民からは、史上最悪の駄目総理と呼ばれています。総理の記憶喪失は、トップ・シークレット、我々だけの秘密です。」。真実を知るのは、秘書官3名のみ。
進め様としていた政策は勿論、大臣の顔と名前、国会議事堂の本会議室の場所、自分の息子の名前すら判らない総理。記憶に無い件でタブロイド紙のフリーライター・古郡祐(佐藤浩市氏)に強請られ、記憶に無い愛人・山西あかね(吉田羊さん)にホテルで迫られる。どうやら妻・聡子(石田ゆり子さん)も不倫をしている様だし、息子・篤彦(濱田龍臣氏)は非行に走っている気配。そして、選りに選ってこんな時に、アメリカ大統領のスーザン・セントジェームス・ナリカワ(木村佳乃さん)が来日。
他国首脳、政界のライヴァル、官邸スタッフ、マスコミ、家族、国民を巻き込んで、記憶を失った男が、捨て身で自らの夢と理想を取り戻す。果たして、其の先に待っていた物とは!?
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劇作家、脚本家、演出家、俳優、コメディアン、そして映画監督と様々な“顔”を持つ三谷幸喜氏。彼が脚本家として関わった作品には、「警部補・古畑任三郎シリーズ」や「わが家の歴史」、「真田丸」、「連続人形活劇 新・三銃士」、そして「シャーロック ホームズ」といった面白い物が在る一方で、面白いと感じられなかった物も結構在る。個人的には「当たりor外れがハッキリしている脚本家。」という印象だ。少なくとも彼が映画監督して作り上げた作品には、面白いと感じる物が無かった。
今回観た映画「記憶にございません!」は、「傲慢無礼で自分勝手といった理由により、多くの国民から“史上最悪の駄目総理”と忌み嫌われた男が、“子供の頃の物”を除き、全ての記憶を失った。」という突拍子も無い設定の物語。「処世術に長け、口が上手い事で政治家になったものの、自分の利益の事しか考えず、確かな理論に基づく主義や主張も無いどころか、肝心な“政治”に関する知識も欠けている様な連中が跋扈する、今の日本の政界。」を、痛烈に皮肉った作品と言って良いだろう。
観客を笑わせる演出が、実に上手。大爆笑を連発させるという“単調な演出”では無く、“小さな笑い”や“中程度の笑い”、“しんみりとさせる場面”等をテンポ良く挟み込む事で、“切れの良い大爆笑”へと結び付けているからだ。
登場人物で言えば、夜のニュースキャスター・近藤ボニータ役の有働由美子さん、そして首相夫人の兄・鱒淵影虎役のROLLY氏には驚かされた。本編で共に「見た事が無い役者だけど、何ていう人なんだろう?」と疑問だったのだが、エンド・ロールで彼女達で在る事を知り、「嘘だろ!?」と。ROLLY氏の場合は、「そう言われてみれば彼だ。」と思ったけれど、有働さんの場合は全く雰囲気が違っていたので、正体が判っても「えー。」という感じだった。
“深み”は無いけれど、“笑える作品”では在る。総合評価は星3つ。