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テセウスの船:パラドックスの1つで、「テセウスのパラドックス」とも呼ばれる。「或る物体(オブジェクト)の全ての構成要素(部品)が置き換えられた時、基本的に元の物と全く同じで在ると言える(同一性=アイデンティティ)のか?」という問題を意味する。
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今年の1月19日(日)21時、TBSで放送開始となったTVドラマ「テセウスの船」の第1話を見た。「漫画家・東元俊哉氏が描いた人気漫画が原作。」というのは放送開始前に知っていたけれど、申し訳無いが東元俊哉氏の事は全く知らなかったし、「テセウスの船」という漫画の存在も全然知らなかった。“パラドックスを題材にしたミステリー”というのに興味を持ち、第1話を見る事にしたのだが、正直余り期待はしていなかった。でも、第1話を見終えて、ストーリーにどっぷり引き込まれてしまったし、「此のドラマは、非常に注目を集めるぞ。」と確信。何人かの知り合いに、「面白いドラマが始まったよ。」と教えたのだった。
確信した通り、「テセウスの船」は回を重ねる毎に大きな注目を集める様に。そんな「テセウスの船」が昨夜、最終回を迎えた。「次は、どういう展開になるのだろうか?」と、こんなにもハラハラ&ドキドキして見続けたドラマって、古くは「もう誰も愛さない」、近い所では「流星ワゴン」(「“息子”が未来からタイムスリップし、過去の“家族”と会う。」や「親子の情愛を描いた作品。」等、「テセウスの船」と非常に似た雰囲気を持つドラマ。)以来だ。今日は最終回を見終えての感想を書くが、ネタバレの部分も在るので、“嫌な方は以下の文章を読まない”で貰いたい。
「テセウスの船」に付いて全く御存知無い方は、此方の粗筋(漫画版の粗筋で在り、ドラマ版は大分違っている様だ。)を読んで欲しい。ざっくり書くと「無差別毒殺事件の犯人として逮捕され、死刑が確定した元警察官の佐野文吾(さの ぶんご)。妻・和子(かずこ)と長女・藍(あい)、そして長男・慎吾(しんご)の4人家族だった佐野家は非常に仲の良い家族だったが、殺人犯の家族という事で世間から袋叩きされる。苗字を「田村(たむら)」に変え、文吾の無実を信じられなくなった彼等は離散状態に。文吾の逮捕後に生まれた次男・心(しん)は、自分達家族を不幸のどん底に陥れた父を恨み続けていたが、或る切っ掛けによって父の無実を明らかにし様と思い立つ。そんな彼が、無差別毒殺事件が発生した時代にタイプスリップし・・・。」という感じ。
ストーリーの面白さは言う迄も無い。「真犯人は誰だ?」と推理するも、誰もが怪しく見えてしまう。真犯人が明かとなり、「うわー、意外だ!」と思ったら、実は真犯人と思われた人物を操る“本当の真犯人”の存在が明らかとなる。“本当の真犯人”や“犯行動機”も意外や意外で、推理していた立場からすると“完全敗北”の思いが。
キャスティングの見事さも光っていた。主人公・心を演じた竹内涼真氏には「良い子っぽいな。」と好感を持っていたけれど、芝居自体をそんなに評価していなかった。でも、今回の役は上手く演じていたと思うし、彼にとって「テセウスの船」が“代表作”になるのは間違い無い。又、子供時代の加藤みきお(かとう みきお)役を演じた柴崎楓雅君の上手さは圧巻だったし、木村さつき(きむら さつき)役の麻生祐未さんが見せたエキセントリックな演技も印象深い。他の出演者も、概して良かったと思う。
「親殺しのパラドックス」というのが在る。「“未来から来た子供”が、過去にタイムスリップして、“過去の親”を殺した場合の矛盾。」を意味する。「“過去の親”を“未来の子供”が殺した時点で、“未来の子供”は生まれなくなる訳なので、“未来の子供”は存在しないではないか。」等の矛盾だ。
今回、“未来から来た心”は、“過去の世界”で刺殺される。そして、次の場面では“21年後の今(2020年)”に飛び、心を囲む佐野家の人々が映し出される。「亡くなった心が、どうして生きているの?結局、死んだと思わせて、実は死ななかったって事?」と一瞬パニック状態になったけれど、要はタイトル通り「テセウスの船」の状態という事に気付かされる。どういう事かと言えば、「“元々未来に存在していた心”は死に、“全く別の心”が生まれた。」という事なのだ。其の事実を知っている、と言うか其の記憶を残しているのは父・文吾だけで在り、彼は「自分を助けるべく、未来から来た次男・心は死んだ事。そして、其の事を知った状態で“新たに生まれた心”を育て続け、21年が経過した。」訳で、其の“余りにも重い現実”を思うと、堪らなく泣けて来た。(此のドラマ、親子の情愛で何度泣かされた事か。)
未来(2020年)の世界では全く姿を現さなかった慎吾(長男)が、最後の最後に姿を現す。子供時代の坊主頭姿という繋がりでだろうが、澤部佑氏が演じていたのには大笑いしてしまった。
忘れられないドラマが、又1つ増えた。続きが見られないのが、とても残念。