「其の行為は、“正当防衛”なのか?其れとも、“過剰防衛”なのか?」が問われる事が在る。「急迫不正の侵害に対し、自分又は他人の生命・権利を防衛する為、止むを得ずにした行為。」を正当防衛と言うが、重要なポイントは“急迫不正の侵害”と“止むを得ず”という部分だろう。例えば「強盗に襲われた。」なんていうのは“急迫不正の侵害”と一般的に言え様が、だからと言って「強盗に対し、どんな行為をしても問題無い。」という訳では無く、飽く迄も「急迫不正の侵害を回避する為、止むを得ずしなければならなかった最低限度の行為が正当防衛。」という事になろう。
此方に詳しく記されているが「不正の侵害で在るかどうか?」、「急迫性が在るかどうか?」、「防衛行為の必要性が在るかどうか?」、「防衛行為の相当性が在るかどうか?」、そして「防衛の意思が在ったかかどうか?」の5つのポイントに付いて、全てが「在り(在った)」と判断された場合“のみ”、正当防衛が認められ、1つでも「無し(無かった)」と判断されれば、過剰防衛とされてしまうと。
此の様に、「パッと考えると『正しい。』と思えそうな事柄でも、法解釈で照らし合わせると『正しく無い。』と判断される。」事が、結構在ったりする。
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「浸け麺頼み『何故、麺が冷たいんだ!』と暴れた客を店主が拘束、『私人逮捕』が許されるのはどんな時?」(2月24日、弁護士ドットコム ニュース)
拉麺店の店主が、浸け麺を頼んで「何で、麺が冷たいんだ!」、「俺を舐めてるのか、殺されたいのか!」等と怒鳴り散らし、暴行した男性客(40代)を私人逮捕したとして、話題になっている。
トラブルは2月16日、「麺処まるわ」(千葉市)で起きた。店主は逮捕時の様子に付いて、「身体に直接触れない様に、上着の襟元、右袖を掴んで拘束し、居合わせた常連さんに通報して貰いました。」と語る。其の後、警察に被害届を出したと言う。
「私人逮捕」とは一般人(私人)による現行犯逮捕の事を言うが、何の様な場合に許されるのだろうか。一般人でも現行犯逮捕出来るという事は、刑事訴訟法に規定されている。
【刑事訴訟法213条】
現行犯人は、何人でも、逮捕状無くして、此れを逮捕する事が出来る。
逮捕出来るのは現行犯、準現行犯に当て嵌まる場合だ。一般人による現行犯逮捕が認められるのは、其の場で身柄を確保する必要性が高く、誤認の恐れも低い為で、逮捕状も不要とされている。
注意を要するのは、逮捕する時だ。相手を押さえ付け様とする行為が、暴行等に当たる可能性も在る。裁判例では「『社会通念上、逮捕の為に必要且つ相当で在る。』と認められる限度内。」で在れば、実力行使は許されるとしている。
【最高裁昭和50年4月3日判決】
「現行犯逮捕をし様とする場合に於て、現行犯人から抵抗を受けた時は、逮捕をし様とする者は、警察官で在ると私人で在るとを問わず、其の際の状況から見て、社会通念上逮捕の為に必要且つ相当で在ると認められる限度内の実力を行使する事が許される。」。
抵抗の素振りが無いにも拘わらずに押さえ込んだり、行き過ぎた実力行使をしたりすれば、暴行や傷害等の罪に問われる可能性も在る。
今回の拉麺店では、客は振り上げていた右拳を振り下ろし、店主の左手首にぶつけて来たと言う。店主は私人逮捕する旨を説明した後、身体に直接触れない様に、上着の襟元、右袖を掴んで拘束したと語っている。「社会通念上、逮捕の為に必要且つ相当で在ると認められる限度内」と言えるだろう。
又、一般人が現行犯を逮捕した時は、直ちに司法警察職員等に引き渡さなければならないとされている(同法214条)が、店主は現行犯逮捕した後に、速やかに通報し、警察に引き渡している。
一般人による現行犯逮捕が報じられる事も在る。2016年12月には、仮面ライダー・シリーズに出演していた俳優・松田悟志さんが、妻のスカート内をスマートフォンで盗撮した容疑者を取り押さえ、警察に引き渡すという事件が在った。
他にも、電車内で痴漢を目撃した第三者や被害者本人が、犯人を捕まえるというケースも在る。然し、何の様な犯罪でも、私人逮捕が認められる訳では無い。
「30万円以下の罰金・拘留・科料に当たる罪に付いては、『犯人の住居若しくは氏名が明らかでは無い場合』、『犯人が逃亡する恐れが在る場合』で無ければ、一般人による逮捕は出来ない。」事にも注意が必要だ。
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「自分に、100%理が在る。」と思ったとしても、何でも彼んでも私人逮捕が許される訳では無く、法律に則った形で無ければ認められないのは、正当防衛と一緒。
其れにしても、「今回の店主の対応は、私人逮捕が認められる御手本。」と言って良い。「問題にならない様、“後から”考えた説明。」では無いだろうけれど、自分が店主の立場だったら、こうも冷静に対応出来るか自信が無い。