*********************************
26歳の佐々木守(ささき まもる)は、地方都市の社会福祉事務所で、生活保護受給者(ケース)の下を回るケースワーカーとして働いていた。曲者揃いのケースを相手に忙殺されていた其の夏、守は同僚が生活保護の打ち切りをちらつかせ、ケースで在る22歳の女性・林野愛美(はやしの あいみ)に肉体関係を迫っている事を知る。真相を確かめる為に守は、女性の下を訪ねるが、軈て脅迫事件は形を変え、社会のどん底で暮らす人々を巻き込んで行く。
生活保護を不正受給する小悪党、貧困に喘ぐシングル・マザー、東京進出を目論む地方ヤクザ。負のスパイラルは加速し、遂には凄絶な悲劇へと突き進む。
*********************************
第37回(2017年)横溝正史ミステリ大賞の優秀賞を受賞した小説「悪い夏」(著者:染井為氏)は「生活保護の不正受給」、「貧困」、「脱法ドラッグ」等、現代社会が抱える“闇の部分”を題材としている。
何年か前に大きく取り上げられた「生活保護の不正受給」だが、不正受給している連中は許せない。貴重な血税を、不正な形で流用される事が在ってはならない。でも、働きたくても働けなかったり、必死で働いても貧困に喘いでいる人達が生活保護を受給するのは、正当な事だとも思っている。
「悪い夏」の中では、生活保護の不正受給に付いて、具体的な手口が記されている。興味深い内容では在るのだけれど、危惧してしまう点も在る。過去に何度か記したけれど、「5ちゃんねる情報を妄信し、生活保護受給者を十把一絡げに“悪”と断じて、嬉々として彼等を叩く事を生き甲斐にしている知人の高齢者。」みたいな人は、こういう小説を読むと、「ほら見た事か!」と更なるバッシングに走りそう。(生活保護を受給して当然の人が迎える悲劇も、「悪い夏」の中で記されてはいるのだが。)
“イヤミス”という用語が在る。「読むと“嫌”な気分になる“ミステリー”、後味の悪いミステリー。」を意味し、湊かなえさんの作品等が該当。「悪い夏」も典型的なイヤミスだが、「こんな風になったら嫌だなあ。」という予想を、更に上回る嫌な展開。真っ当な人、又は真っ当になろうとしている人が、幸せを掴み掛け様とした所で“地獄”に突き落とされて行くとうのは、実際にそういう現実が存在するという事は判っていても、気持ちが良い物では無い。全く救いの無い小説で在る。
総合評価は星3つ。