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「夜の記憶」
水生生物の“彼”は、暗黒の海の中で目覚め、“町”を目指す。一方、三島暁(みしま たかし)と織女(おりめ)の夫婦は、南の島のヴァカンスで、太陽系脱出前の最後の時を過ごす。
「呪文」
文化調査で派遣された金城(かねしろ)は、植民惑星「まほろば」に降り立った。目的は、此の惑星で存在が疑われる諸悪根源神信仰を調べる為だ。此れは、集団自殺や大事故等を引き起こす危険な信仰で、若し其の存在が認められたら、住民は抹殺される。金城は「まほろば」の住民を救おうとするが・・・。
「罪人の選択」
1946年8月21日、磯部武雄(いそべ たけお)は佐久間茂(さくま しげる)に殺され様としていた。佐久間が戦争に行っている間に、磯部が佐久間の妻を寝取ったからだ。磯部の前に出されたのは一升瓶と缶詰。一方には猛毒が入っている。若し何方かを口にして生き延びられたら、磯部は許されると言う。果たして正解は?
「赤い雨」
新参生物“チミドロ”によって、地球は赤く蹂躙された。チミドロの胞子を含む赤い雨が世界各地に降り注ぎ、生物は絶滅の危機に在った。選ばれた人間だけが入れるドームに、成績優秀の為、スラムから這い上がった橘瑞樹(たちばな みずき)は、不可能と言われた未知の病気“RAIN”の治療法を探る。
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貴志祐介氏の小説「罪人の選択」を読了。4つの短編小説から構成されている此の本、「罪人の選択」というタイトルから、読む前は「全てミステリー。」と思っていたのだが、ミステリー的な作品は「罪人の選択」だけで、残りの「夜の記憶」、「呪文」、そして「赤い雨」はSF作品だった。
「夜の記憶」、個人的には全く面白く無かった。小難しさが前面に押し出された感じで、ストーリーの中に入り込めなかったからだ。
「呪文」は、「夜の記憶」よりは読ませるが、ピンと来る内容では無かった。大人になって以降読む機会は減ったものの、子供の頃は夢中になって読んでいた人間なので、SF作品には親近感を持っているのだけれど、そんな自分でも余り引き込まれる内容では無かったので。
「罪人の選択」は、“人間の心理の妙さ”が伝わって来る作品。「疚しい思いを抱えていると、人はどうしても疑心暗鬼になってしまう。→疑心暗鬼になってしまうと、普段では考えられない選択をしてしまう。」というのは、良く判る。まあまあ面白い作品。
最後の「赤い雨」、2015年~2017年に掛けて、雑誌に連載されていた作品。エイズ等、死を意識させる感染症は過去にも存在したが、先進国、特に日本は概して感染症に無頓着だったと思う。だが、新型コロナウイルスの出現により、世界の人々の意識は一変した。「“チミドロ”なる新参生物の出現により、殆どの生物が絶滅し、人間も生命の危機に晒されている世界。」というのは、今となっては“全くの絵空事”とは思えないが、“新型コロナウイルス感染拡大に怯える今の世の中”を思わせる作品を、5年も前に書いていたのは凄い。貴志氏が書いたSF作品の中で一番好きな「クリムゾンの迷宮」には及ばないものの、今回の4作品の中では一番面白かった。
総合評価は、星3つとする。