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坂本純平、21歳。埼玉県東松山市出身。新宿・歌舞伎町のチンピラにして皆の人気者。心酔する兄貴分の命令は何でも聞くし、喋り方の真似もする。女は一寸苦手だが、困っている人を見ると放っておけない。そんなアナクロな純平が組長から受けた指令、其れは「敵対する組の幹部の暗殺」、即ち“鉄砲玉”となる事だった。
決行迄の3日間、自由時間を与えられた純平は羽を伸ばし、様々な人達と出会う。しかし其の間、携帯サイトでは何と「純平」に関するスレッドが立ち、不埒な書き込み合戦が白熱して行く。
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奥田英朗氏の小説「純平、考え直せ」は、21歳のチンピラ・坂本純平が主人公。幼少の頃より悪事や喧嘩を繰り返し、少年院入りした経験を持つ純平だが、根は御人好しで寂しがり屋な男。「女は一寸苦手だが、困っている人を見ると放っておけない。」といった点も含め、「池袋ウエストゲートパーク」シリーズの主人公・真島誠(通称:マコト)とオーバーラップしてしまう所が在る。
しかしマコトには何やかんや言い乍らも彼を見守る母親が居るのに対して、純平の母親の場合は、彼が幼少の頃より男を取っ替え引っ替えし、「母」という立場よりも「女」の立場を最優先して来たという違いが。子供を邪魔な存在としか考えていない感じが在り、純平が顔を見たくて何年振りかに会いに行った際にも、金銭をせびりに来たのかと身構える始末。社会の中で其れなりに居場所を見付け出せているマコトに対し、純平は居場所の無さを常に感じている様に思える。
鉄砲玉を引き受けた事で、其れ迄には見えなかった(感じられなかった)「他者との関係性」を思い知る純平。「深く信頼していた人物の別の顔」や「希薄な関係性しか無いと思っていた人々との、実は結構濃密な関係性。」等々。インターネット上では純平という人間を知らない儘に「ああだこうだ。」と様々な書き込みがされるが、煽りや嘲笑が多くを占める中、親身になって純平に呼び掛ける物も在ったりする。
最後の最後になって、「自分は決して1人じゃない。」と知る純平。其れは其れで「良かった。」と思う一方、彼が結局どうなったかが明示されない結末には、読む人其れ其れに異なる思いを馳せるのではないだろうか?タイトル通り「純平、考え直せ!」と思い続けた自分の場合、どうしてもハッピーエンドを想像する事は出来なかった。
総合評価は星3.5個。