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正確な鑑定の為には、あらゆる手を尽くす。日本有数の精神鑑定医・影山司(かげやま つかさ)の助手に志願した新人医師・弓削凛(ゆげ りん)は、犯罪者の心の闇に対峙して行く。究極の頭脳戦の果てに、影山が見据える未来とは。そして、凛が精神鑑定を学ばねばならない理由とは・・・。
第1話「闇を覗く」
歌舞伎町無差別通り魔事件の犯人・白松京介(しらまつ きょうすけ)。重度の統合失調症と診断された彼は、本鑑定を受ける為、影山達の病院に移送された。
第2話「母の罪」
横溝美里(よこみぞ みさと)は生後5ヶ月娘を抱き、マンションから飛び降りた。重い抑鬱症状が見られた美里は、面談で「悪魔が、娘を殺せと脅した。」と言う。
第3話「傷の証言」
高校中退後、自宅に引き籠もっていた沢井一也(さわい かずや)は、姉を刺し、逮捕された。影山達が鑑定に赴くが、支離滅裂な発言をし、恐慌状態に陥ってしまう。
第4話「時の浸蝕」
傷害致死で起訴された小峰博康(こみね ひろやす)には、精神疾患の疑いが。簡易鑑定を行った影山は、「罪を逃れる為の詐病。」と証言したが、第2審で思わぬ反撃に遭う。
第5話「闇の貌」
同僚を刺殺した桜庭瑠香子(さくらば るかこ)。過去にも殺人事件を起こしていた瑠香子だが、解離性同一性障害、即ち多重人格と診断され、不起訴となっていた。
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医師で在り作家でも在る知念実希人氏の作品「十字架のカルテ」は、加害者の精神状態や責任能力を判断する精神鑑定の世界を描いている。
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・「・・・精神鑑定は誰のために行われるものなんでしょうか?被害者の遺族のためですか?」。「いた、違う。残念ながら我々に遺族を癒やす能力はない。鑑定の結果次第では、容疑者が不起訴になることもある。それは結果的に、遺族の苦しみをさらに強くしかねない。」。「では、精神鑑定はなんのために行われるんですか?」。「社会のためだ。」。全く迷うことなく影山は答えた。凛は「社会のため?」と聞き返す。「そうだ。なぜ犯罪が起こったのか。精神疾患がその原因となっているのか、それを慎重に判断することにより、同じような犯罪が起きるのを防ぐ足掛りにする。それが精神鑑定医の仕事だと私は考えている。」。
・‐現代の日本において、殺人を犯すという行為、それ自体が『異常』なんだ。たしかに、殺人を犯す者が『正常」なわけがない。ただ、その『異常』が疾患によるものか、それともその人物の心から生み出されたものなのかを判断するのが鑑定医の仕事だ。
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自殺した有名人は少なからず存在するが、自分がリアル・タイムで触れた報道で言えば、大きな衝撃を受けた最初は田宮二郎氏の自殺だった。以降、沖雅也氏や可愛かずみさん、沖田浩之氏、桂枝雀氏、松宮一彦氏、高野光氏、桂三木助氏、古尾谷雅人氏、ポール牧氏、甲斐智枝美さん、田中実氏、伊良部秀輝氏、塚越孝氏、牧伸二氏、藤圭子さん、後藤浩輝氏等、其の自殺に大きな衝撃を受けた有名人は何人か存在するけれど、「余りにも可哀想でならなかった。」というのは岡田有希子さん、清水由貴子さん、そして18日に命を絶った三浦春馬氏の3人。全く面識は無いけれど、真面目さや人柄の良さが画面から伝わって来た彼等。「真面目過ぎるからこそ、悩みを抱え込んでしまい、其の結果として自殺してしまった。」というのが強く感じられ、だからこそ可哀想でならない。
三浦氏の訃報が流れて以降、彼を知る人から語られたのは「とても優しかった。」、「真面目だった。」、「非常に責任感が強かった。」、「ストイック過ぎた。」という人柄。「感じていた通りの人だったんだなあ。」と思うと同時に、こういった人柄の人が概して悩みを抱え込んでしまい、自殺に走ってしまう傾向が在るのも事実。
三浦氏が以前語っていた言葉で、強く印象に残っている物が在る。確か小学校時代の恩師から言われた言葉だったと記憶しているが、「『一番の親不孝は、親より先に死ぬ事だぞ。』と言われたのが、強く心に刻み込まれている。」と彼は語っていた。そんな彼が、親よりも先に自ら命を絶ってしまった。
「非常に責任感が強く、何よりも周りに迷惑を掛けるのが嫌だった。」という彼が、数多くの仕事を残して自殺。一部収録、又は全収録されたTVドラマも在り、自殺によってどんなに影響が出るかは判っていただろうに。
全てを頭では理解した上でも尚、自ら命を絶たなければいけない程追い込まれていた訳だ。5年前の記事「自殺」で書いた様に、自殺に関しては否定的な考えの自分だが、だからと言って自殺した人を責める気にはなれない。悩みに悩んだ末の結論だろうし、何よりも“自殺した人の心の闇”を第三者が「ああだこうだ。」言うのは、とても失礼な事に感じるので。
事程左様に、人の心の内を知るのは困難だ。犯罪が発生した際、加害者が精神鑑定によって「責任能力無し。」と判断され、罪に問われない事が在るけれど、中には「罪を逃れる為、精神疾患を装っているに違い無い。」と感じられるケースも在り、腹立たしを感じる事も。でも、精神判定で「責任能力無し。」と判断されたのだから、其れに従わざるを得ない。「罪を逃れたいが為に、精神疾患を装っているのではないか?抑、精神疾患が在ろうが無かろうが、自分にとって大事な人を奪ったのだから、罪に問うて欲しい。」という複雑な思いを持つ遺族は、少なからず存在すると思う。
一般の人にとっては知らない事が多いで在ろう「精神鑑定」に付いて、「十字架のカルテ」は詳しく記している。そういう点だけでも、読む価値在り。謎解きの面でも面白いし、総合評価は星3.5個とする。