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葉村晶(はむら あきら)は、吉祥寺のミステリー専門書店のアルバイト店員をし乍ら、本屋の2階を事務所にしている「白熊探偵社」の調査員として働いている。
付き合いの在る「東都総合リサーチ」の桜井肇(さくらい はじめ)からの下請け仕事で、石和梅子(いさわ うめこ)という老女を尾行した所、梅子と木造の古いアパート「ブルーレイク・フラット」の住人・青沼ミツエ(あおぬま みつえ)の喧嘩に巻き込まれ、怪我を負ってしまう。
住み慣れた調布市のシェアハウスを建て替えの為、引っ越さなくてはならなくなった葉村は、青沼ミツエの申し出で「ブルーレイク・フラット」に移り住む事になるが、其処では思いも掛けぬサヴァイヴァル生活が待っていた。
ミツエの孫・ヒロトと父の光貴(みつたか)は8ヶ月前に交通事故に遭い、光貴は死に、生き残ったヒロトも重傷を負った。事故の前後の記憶を無くしたヒロトは、「何故、自分が其の場所に父と居たのか調べて欲しい。」と晶に頼む。
其の数日後、「ブルーレイク・フラット」は火事になり、ミツエとヒロトは死んでしまい・・・。
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若竹七海さんの「錆びた滑車」は、「2018週刊文春ミステリーベスト10【国内編】」の6位、そして「このミステリーがすごい!2019年版【国内編】」の3位に選ばれた小説で、葉村晶シリーズの第6弾に当たる。
ミステリーの世界では、スマートに謎を解く探偵が少なく無い中、葉村晶は何処か鈍臭さが漂っている。結果的には謎を解くのだけれど、其の過程が“直線距離”では無く、“遠回りを続けた挙句”というのも在るが、何よりも「探偵業務を行う上で、見舞われる“不運”が半端じゃ無い。」のが、鈍臭いイメージを増させるのだ。恐らくは、全身傷だらけに違い無い。
又、葉村晶シリーズに登場する人達は実に個性的、もっと言ってしまうと、実にエキセントリックな者が多い。晶自身も結構エキセントリックな部分を持ち合わせているが、そんな彼女も霞んでしまう様な人達で溢れ返っている。其処迄では無いにせよ、最近は現実社会でもエキセントリックな人が増えている気も。
鈍臭い探偵にエキセントリックな人達、そういう組み合わせが意外にも“人間臭さ”を醸し出している。だから、葉村晶シリーズは、多くの人が手に取るのだろう。
意外な人物との繋がり、此れは面白かった。ミステリーに関する蘊蓄に溢れているので、ミステリー好きには楽しい作品だとも思う。でも、動機面(犯行動機に限らず、人が特定の行動を取る上での動機も含む。)で弱さを感じる部分が幾つか在ったのは、個人的に評価を下げる理由となった。
総合評価は、星3.5個とする。