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東京都町田市郊外で発見された身許不明の焼死体。町田署の女刑事・保田真萩(やすだ まはぎ)は、警視庁捜査1課の南条(なんじょう)とコンビを組んで聞き込みを開始するが、事件解決に繋がる有力な手掛かりを掴めずに居た。
そんな中、荒川区内で女性の変死体が発見される。其の殺害状況が公表されるや、ネット上で或る噂が囁かれ始めた。「町田と荒川の殺人は、人気VR(ヴァーチャル・リアリティ)ゲーム『ドラゴンズ・グレイブ』の中で発生する連続殺人の見立てではないのか?」。一見、何の繋がりも無い様に思えた2つの事件だったが、軈て其の噂を看過出来なくなる様な事態へと発展して行く。
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貫井徳郎氏の小説「龍の墓」は、「“仮想世界”、即ち“VRの世界”に入り込む為のツール“VRゴーグル”が普及した事で、其れ迄の生活必需品・スマホが廃れて行った社会。」を舞台としている。20代以下の若者で言えば、スマホ・ユーザーは皆無に等しい状況で、多くの人間がVRゴーグルを着用し、VRの世界に浸り切っている状況。「余りにもVRの世界がリアル過ぎて、現実社会に戻れない人間が続出している。」事が、社会問題になっていると言う。
そんな社会で発生した連続殺人事件が、実はVRゲーム「ドラゴンズ・グレイブ」の中で発生する連続殺人事件の見立てで在る可能性が指摘される。「現実社会では女刑事・保田真萩が、そしてVRゲーム内では真萩の元同期で、或る事件によって警察を辞め、今は“引き籠り状態”に在る瀧川(たきがわ)が、其れ其れ“連携”して、連続殺人事件の謎を解き明かして行く。」というストーリー。
VRゲーム「ドラゴンズ・グレイブ」は「中世ヨーロッパ的世界を舞台にした剣と魔法の物語」で、「目の前に現れた“選択肢”を選ぶ事で登場人物達と“会話”し(選択肢を的確に選ぶと、更に選択肢が増えて行く。)、提示されたクエストをクリアして行く事で、“物語”が展開して行く。」という設定は、自分が大好きな「『ドラゴンクエスト』シリーズ」を彷彿させる。
現実社会とVRの世界が交互に描かれる、非常に独特な世界観。社会派の作品を多く手掛けて来た貫井氏だったので、趣が全く異なる「邯鄲の島遙かなり」(総合評価:星3.5個)が上梓された際には、「こういう作品も書くんだ!」と非常に驚いた。今回の作品も又、貫井氏らしからぬ作品で、“作家としての成長”を感じさせる。
“雰囲気的”には、貴志祐介氏の初期作品「クリムゾンの迷宮」が重なる。貴志作品の中でも特に好きなテーストで、ワクワクし乍ら読み進めた物だが、其れに比べると「龍の墓」は、そういった部分が薄い様に感じる。「現実社会とVRの世界を“リンク”させる。」という発想は面白いけれど、肝心の“犯行動機”が個人的にぴんと来ないし、取って付けた様な“笑いの要素”(南条に関する意外な事実等。)も余計だったのではないか?
総合評価は、星3つとする。