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東城大学医学部付属病院不定愁訴外来の責任者で、万年講師の田口公平は、何時もの様に高階病院長からの呼び出しを受けていた。高階病院長の“細やかな”御願いは、厚生労働省からの講演依頼。依頼主は、厚生労働省役人にてロジカル・モンスター、白鳥圭輔。名指しされた田口は嫌々乍ら、東京に上京する事を了承した。行き先は白鳥の本丸・医療事故調査委員会。様々な思惑が飛び交う会議に出席した田口は、グズグズの医療行政の現実を知る事に・・・。
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現役の勤務医でも在る作家・海堂尊氏。彼の近刊「イノセント・ゲリラの祝祭」を読破。「長期的ヴィジョンの無い官僚達の御手盛り行政で、如何に医療現場が破綻しかかっているか。」をこれ迄の著書で、時にはユーモアを交えつつ訴えて来た海堂氏だが、この作品でもそれは変わっていない。特に「死亡時画像診断」、即ち「Ai(オートプシー・イメージング)」の必要性をライフワークとして主張している彼が、或る宗教団体内で起こった不審死を題材にしたのはなかなか興味深い所で在る。
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・ 「それにしても、最近の救急患者の増加は異常だなあ。」。「いっときより、かなり増えている気はしますけど、どうしてかなあ。」。首をひねる兵藤に、部屋の隅の椅子に座って話を聞いていた藤原さんが、言う。「長期療養のお年寄りを自宅療養に切り替えるため、厚労省が医療制度を作り直したからですよ。それまで病院で看取ってた入院患者が家に帰される。で、亡くなる直前に容態が急変すると、救急患者として戻ってくる。そのせいで救急患者が増加したんです。」。「なるほど。死ぬ前の患者が全員救急患者になってしまうわけですね。それじゃあ大変だ。」。これも、医療費削減を近視眼的視野で断行した厚労省の失政だろう。
・ 「官僚には医療なんてどうでもいいことです。大切なのはカネと法律。法律の整合性と予算の分捕りが至上命題で、それ以外に傾注するのはバカだと信じる。それが官僚です。」
・ 「ここに国策の立派な見本がある。この『メタボ』こそわが厚労省が長年かけて育て上げた国策の秘密兵器。腹囲を測ってグラフに当てはめれば自動的に指導案が吐き出される。考える必要もなく、受診率が低ければ保険料を高額に設定すると脅す。ラクしてカネを巻き上げる企画が第一等級の国策さ。(中略)医者も巻き込んでカネを引っ張らないと、俺たちの将来が枯れる。現場に落とすカネを最小限にして、居抜き率が高い企画ほど、(厚労省内の)評価は高いものなんだ。(中略)『メタボ』が素晴らしいのは、本当に国民の健康増進に有効かどうか明らかになるまで十年以上かかる点だ。結果が出るころには俺たちは、どこぞに天下り悠々自適で高みの見物。俺たちの仕事はその繰り返し。自分たちの食い扶持の確保に心血を注ぐだけさ。」
・ 「現場に必要な仕組みを作るのではなく、システムのために現場をアジャストする、それが俺たち官僚の仕事だ。」
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医療現場に身を置いているからこそ肌で感じる、“毒”を含んだ文章が並んでいる。必死で頑張っている医師が少なからず居る一方、駄目な者も同時に存在している様に、好い加減な官僚ばかりでは無いのも判ってはいる。玉石混淆はどんな世界にも在る事だ。唯、「官」という組織が概して保守的で、既得権益の死守に汲々としているのは事実だろう。その為に医療現場が破綻に向かい、多くの国民が不利益を被るというので在れば、これは何をか言わんやだ。
2年前の記事「変死体の解剖」で、我が国の変死体の解剖率が恐ろしい程低い事を紹介させて貰った。一度は犯罪性が疑われた変死体ですら、その多くが司法解剖されずに火葬されているという御寒い現実は、今も変わっていない様だ。「Aiは解剖とは(『どちらが上でどちらが下だ。』等と)争いません。解剖の判断に迷う症例や、解剖をしないと決めた症例に適用します。」という台詞がこの「イノセント・ゲリラの祝祭」に登場するが、その予算をどうするかも含め、もっと前向きに検討されても良いのではないだろうか。
これ迄は「超」が幾つも付く様な「変人」で、時には不快感すらも覚える様な存在だった白鳥だが、この作品の中ではそれが薄まっている。否、正確に言えば薄まっている訳では無く、「正論をストレート過ぎる程に吐き出していた彼だからこそ、腹に一物どころか二物も三物も在る様な連中が多く登場するこの作品の中では、その『まともさ』が浮き彫りになっている。」という事かもしれない。
医療行政の問題点をこれ迄以上に曝け出している点では読み応えが在るが、ストーリー的には従来の面白みがやや減じられてしまっている気がする。総合評価は星3つ。
東城大学医学部付属病院不定愁訴外来の責任者で、万年講師の田口公平は、何時もの様に高階病院長からの呼び出しを受けていた。高階病院長の“細やかな”御願いは、厚生労働省からの講演依頼。依頼主は、厚生労働省役人にてロジカル・モンスター、白鳥圭輔。名指しされた田口は嫌々乍ら、東京に上京する事を了承した。行き先は白鳥の本丸・医療事故調査委員会。様々な思惑が飛び交う会議に出席した田口は、グズグズの医療行政の現実を知る事に・・・。
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現役の勤務医でも在る作家・海堂尊氏。彼の近刊「イノセント・ゲリラの祝祭」を読破。「長期的ヴィジョンの無い官僚達の御手盛り行政で、如何に医療現場が破綻しかかっているか。」をこれ迄の著書で、時にはユーモアを交えつつ訴えて来た海堂氏だが、この作品でもそれは変わっていない。特に「死亡時画像診断」、即ち「Ai(オートプシー・イメージング)」の必要性をライフワークとして主張している彼が、或る宗教団体内で起こった不審死を題材にしたのはなかなか興味深い所で在る。
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・ 「それにしても、最近の救急患者の増加は異常だなあ。」。「いっときより、かなり増えている気はしますけど、どうしてかなあ。」。首をひねる兵藤に、部屋の隅の椅子に座って話を聞いていた藤原さんが、言う。「長期療養のお年寄りを自宅療養に切り替えるため、厚労省が医療制度を作り直したからですよ。それまで病院で看取ってた入院患者が家に帰される。で、亡くなる直前に容態が急変すると、救急患者として戻ってくる。そのせいで救急患者が増加したんです。」。「なるほど。死ぬ前の患者が全員救急患者になってしまうわけですね。それじゃあ大変だ。」。これも、医療費削減を近視眼的視野で断行した厚労省の失政だろう。
・ 「官僚には医療なんてどうでもいいことです。大切なのはカネと法律。法律の整合性と予算の分捕りが至上命題で、それ以外に傾注するのはバカだと信じる。それが官僚です。」
・ 「ここに国策の立派な見本がある。この『メタボ』こそわが厚労省が長年かけて育て上げた国策の秘密兵器。腹囲を測ってグラフに当てはめれば自動的に指導案が吐き出される。考える必要もなく、受診率が低ければ保険料を高額に設定すると脅す。ラクしてカネを巻き上げる企画が第一等級の国策さ。(中略)医者も巻き込んでカネを引っ張らないと、俺たちの将来が枯れる。現場に落とすカネを最小限にして、居抜き率が高い企画ほど、(厚労省内の)評価は高いものなんだ。(中略)『メタボ』が素晴らしいのは、本当に国民の健康増進に有効かどうか明らかになるまで十年以上かかる点だ。結果が出るころには俺たちは、どこぞに天下り悠々自適で高みの見物。俺たちの仕事はその繰り返し。自分たちの食い扶持の確保に心血を注ぐだけさ。」
・ 「現場に必要な仕組みを作るのではなく、システムのために現場をアジャストする、それが俺たち官僚の仕事だ。」
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医療現場に身を置いているからこそ肌で感じる、“毒”を含んだ文章が並んでいる。必死で頑張っている医師が少なからず居る一方、駄目な者も同時に存在している様に、好い加減な官僚ばかりでは無いのも判ってはいる。玉石混淆はどんな世界にも在る事だ。唯、「官」という組織が概して保守的で、既得権益の死守に汲々としているのは事実だろう。その為に医療現場が破綻に向かい、多くの国民が不利益を被るというので在れば、これは何をか言わんやだ。
2年前の記事「変死体の解剖」で、我が国の変死体の解剖率が恐ろしい程低い事を紹介させて貰った。一度は犯罪性が疑われた変死体ですら、その多くが司法解剖されずに火葬されているという御寒い現実は、今も変わっていない様だ。「Aiは解剖とは(『どちらが上でどちらが下だ。』等と)争いません。解剖の判断に迷う症例や、解剖をしないと決めた症例に適用します。」という台詞がこの「イノセント・ゲリラの祝祭」に登場するが、その予算をどうするかも含め、もっと前向きに検討されても良いのではないだろうか。
これ迄は「超」が幾つも付く様な「変人」で、時には不快感すらも覚える様な存在だった白鳥だが、この作品の中ではそれが薄まっている。否、正確に言えば薄まっている訳では無く、「正論をストレート過ぎる程に吐き出していた彼だからこそ、腹に一物どころか二物も三物も在る様な連中が多く登場するこの作品の中では、その『まともさ』が浮き彫りになっている。」という事かもしれない。
医療行政の問題点をこれ迄以上に曝け出している点では読み応えが在るが、ストーリー的には従来の面白みがやや減じられてしまっている気がする。総合評価は星3つ。
メタボとは無縁の体型の様で、本当に羨ましいです。当方、食べた分はそのまんま贅肉になる体質故、減量に四苦八苦の日々。ベルトの穴が一つ狭まった乃至は広がったで一喜一憂している有様です。
健康的な中年太り・・夢のまた夢。
痩せで年取るとほんと貧相だもの。
>医療行政
まじめなお医者様が報われません。
同じく厚生労働省管轄下の保育も同じようなモンです。
「手を抜けば幾らでも楽出来る一方、真面目に遣れば非常に大変。」というのは、どんな職業でも言える事ですよね。傍目からすると「高額所得で、贅沢な生活をしている。」と思われる職業でも、実際にそれを生業にしている人達には人知れない苦労も相当在る事でしょう。弁護士も優雅な生活を送っているイメージが在りますが、確かに高給を得ている人が居る一方で、サラリーマンの平均年収よりも少ない年収の人も少なからず居ると聞きます。どんな職業で在れ、労働に見合った対価がしっかり得られる社会で在って欲しいものです。
今後とも何卒宜しく御願い致します。