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梨花は、悩んでいた。両親を亡くし、祖母も癌で入院。追い討ちを掛ける様に、講師をしていた英会話スクールが倒産。「御金が無い。どうしよう。」。
美雪は、満ち足りていた。伯父の薦めで見合いをした相手が、ずっと憧れていた営業職の和弥だった。幸せな結婚。彼の人に尽くしたい。
紗月は、戸惑っていた。水彩画教室の講師をしつつ、和菓子屋のバイトをする毎日。そんな時、届いた大学時代の友人からの手紙。忘れていた心の傷が、疼き始めた。
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湊かなえさんの小説「花の鎖」は、「花の記憶」に繋がれた3人の女性を中心にストーリーが展開して行く。
梨花が物心が付いた頃より毎年10月20日、母宛てに大きな花束が届くのだが、其の送り人名は「K」。Kの正体を問う梨花に対し、母も父も答えをはぐらかし続け、3年前に両親は事故死してしまう。「Kとは一体何者なのか?」という点に読者の関心が集まる所だが、話は梨花に加えて美雪&紗月という、3人共に縁も所縁も無さそうな女性達が登場し、余計に謎は深まる。
本の帯には、「湊かなえのセカンドステージ始動!」という惹句が踊っていた。湊作品はデビュー作の「告白」以降全作品を読破しているが、第2作からは何れもワンパターンな作風にマンネリ感を覚えていた自分。(前作の「往復書簡」のレヴューでも書いたけれど。)「才能は在るけれど、此の儘では読者が離れてしまうのでは?」という懸念を抱いていたのは自分だけでは無く、湊さん自身も抱いていたのだろう。「花の鎖」は、此れ迄の彼女の作風とは大きく変化している。其の冒険心は、大いに評価したい。
唯、「変化を恐れない冒険心」は高く評価するけれど、肝心な中身に関して言えば高い評価は与えられない。ネタバレになってしまうが、「曖昧な記述を意図的に施す事で、時間軸や人間関係等を誤魔化す手法。」というのは折原一氏を始めとする先人達の“使い古し”で在り、其処に何等かのプラスアルファが無ければ、高い評価を与えるのはどうかと思うので。残念乍ら「花の鎖」には、其のプラスアルファを見出し得なかった。
又、「曖昧な記述を意図的に施す事で、時間軸や人間関係等を誤魔化す手法」を用いる際には、「謎が解けて行く過程で、時間軸や人間関係等が“判り易い形で”明らかになって行く。」事が求められるが、其の判り易さが無かった様に感じる。特に人間関係は混乱し捲りで、何度も前に戻って確認しなければならかった程。
くどい様だが、「変化を恐れない冒険心」は高く評価する。でも肝心な中身が残念さ一杯で、総合評価は星2.5個とさせて貰った。