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嵐の山荘に潜む若き犯罪者。そして、城塚翡翠(じょうづか ひすい)をアリバイ証人に仕立て上げる写真家。犯人達が仕掛けた巧妙なトリックに対するのは、全てを見通す翡翠。だが、挑む様な表情の彼女の目には涙が浮かぶ。其の理由とは・・・。
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相沢紗呼氏の小説「invertⅡ 覗き窓の死角」は、「城塚翡翠シリーズ」の第3弾。「生者の言伝」及び「覗き窓の死角」という、2つの中編小説で構成されている。
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invert=~を裏返しにする。
inverted detective story=倒叙推理小説。
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「初めに犯人を主軸にした描写が為され、読者は犯人と犯行過程が判った上で物語が展開される。其の上で、探偵役が何の様にして犯行を見抜くのか、何の様にして犯人を追い詰めるのかが、物語の主旨となる。」というのが倒叙推理小説で、TVドラマでは「刑事コロンボ・シリーズ」や「古畑任三郎シリーズ」が有名。
「城塚翡翠シリーズ」では、主人公の城塚翡翠がシャーロック・ホームズ役、そして、彼女の“家政婦”でも在る千和崎真(ちわさき まこと)がジョン・H・ワトスン役を担って来たが、今回の作品では真の役割は他の作品と比べると、稍弱い感じがする。
「エキセントリックな言動を多用する事で相手を苛つかせ、失言や失態を導き出し、其れ等を手掛かりにして謎を解く。」というのは古畑任三郎の十八番だが、城塚翡翠の言動は古畑任三郎其の物で在る。特にさとう珠緒さんを思わせる“超絶ぶりっ子”な言動には、読んでいる自分も苛々感が。
最初の作品「生者の言伝」は、“犯人”の少年の駄目さ加減が際立っており、「此れじゃあ、犯行がバレバレではないか。」と思ってしまう程。ミステリーではこういう設定の場合、100%と言って良い程に“どんでん返し”が設けられている物。「恐らくは、こういう落ちになるのだろうな。」と予想していたら、略予想通りの展開に。
“事件解決する上での齟齬”は無いのだけれど、「“友人”とは、どういう人物なのだろうか?」、「暗証番号を的中させた理由は何?」、「“彼”が嘘を吐く時の“癖”って、結局何だったのか?」、「“真犯人”の犯行動機は?」等、幾つかの点がはっきりせず、「魚の小骨が喉奥に刺さった儘の様な感じ。」が残る作品。
そして、「覗き窓の死角」に付いてだが、此方の方が「生者の言伝」よりは“出来”が良かったと思う。とは言え、飽く迄も比較した場合で在り、単体で見たら、「うーん・・・。」と思ってしまう内容。“謎の物体”の正体は当てられなかったけれど、「“彼女”が犯人で在り、“死亡推定時刻”が間違い無いので在れば、導き出される“可能性”は、自ずと限られて来る。」のだ。ミステリー好きならば、此のトリックを思い浮かべる事は、そう難しく無いだろう。稍使い古された感が在る物なので。
総合評価は、星3つとする。