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或る日突然、空中ブランコで失敗を繰り返す様になったベテランのフライヤー・山下公平。尖端恐怖症に罹患したヤクザ・猪野誠司。してはいけない事をしたい衝動に駆られる医師・池山達郎。まともな送球が出来なくなってしまった野球選手・坂東真一。強迫症から小説が書けなくなってしまった売れっ子作家・星山愛子。心に病を抱えた彼等が飛び込んだのは「伊良部総合病院」。精神科医・伊良部一郎に助けを求めるも、奇人中の奇人と言って良い彼の治療は、毎回ビタミン注射を打つ事ばかり。それだけでは無く、彼の奇想天外な言動に患者達は振り回され・・・。
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奥田英朗氏の小説「空中ブランコ」を“今更乍ら”読破。「今更乍ら」と書いたのは、この作品が第131回(2004年上半期)直木賞を受賞した作品で在り、TVドラマ化&アニメ化されているのも知っていたけれど、何故かずっと読まないままに6年以上も経ってしまったから。
主人公の精神科医・伊良部一郎は「非常識」を具現化した様な人物で、実在していたら絶対に友人にはなりたくないタイプでは在るが、何とも言えないユニークさを有している。彼の言動を目で追っていてふっと思ったのは、「このキャラクターって、海堂尊氏の『田口・白鳥シリーズ』の白鳥圭輔にそっくり。」という事。気になって調べた所、「田口・白鳥シリーズ」の第一弾「チーム・バチスタの栄光」の刊行が2006年なのに対して、「精神科医・伊良部シリーズ」の第一弾「イン・ザ・プール」(この作品を著したのが奥田氏とは、恥ずかしい事だけれど今回初めて知った。同名の映画が評判になっていたのは知っていたというのに・・・。)は2002年。詰まり伊良部一郎の方が白鳥圭輔よりも先に“デビュー”していた訳で、「もしかしたら海堂氏が、「精神科医・伊良部シリーズ」からインスパイアーされた面も在ったりするのかなあ。」と思ったりも。
この本は5つの短編小説で構成されており、何れも心因性疾患を抱えた者が登場する。個人的に一番魅了されたのは、「義父のヅラ」という小説。医学部の学部長という義父・野村栄介を持つ池山達郎は、義父のもろ判りな「ヅラ」、即ち「鬘」が気になって気になって仕方無い。周りも栄介がヅラで在るのは判っている筈なのに、誰も不自然な程それに触れようとはせず、それが達郎をして「義父のヅラを、皆の面前で取り外してみたい!」と強く思わせてしまうというストーリー。放送作家の鈴木おさむ氏がAERAの連載コラムで以前、「密かに社内不倫しているカップルや、こっそりヅラを着用している男性って、周りは皆気付いているのに、本人達だけは『絶対誰にもばれていない。』と思っているのが不思議。」みたいな事を書いていたが、これには「確かにその通りだよなあ。」と苦笑してしまったもの。自分の場合、当人には本当に申し訳無いのだけれど、明らかにヅラを着用していると判る人を目にすると、「失礼だから見ちゃいけない。」と思えば思う程に却って視線がその頭部に行ってしまうという悪癖が在る。自分が同じ立場だったらさぞや嫌な思いをするで在ろう事を頭では充分理解しているのだが、この悪癖はどうしても直らない。本当に困ったものだ。
又、外出する前にガスや電気を消し、ドアの鍵を閉めたのを確認したのに、後から「大丈夫だったかなあ。」と思ってしまう軽微な強迫症を自覚しているので、それを扱った「女流作家」もなかなか興味深かった。
本当に今更乍らなのだけれど、「空中ブランコ」は面白い。早い内に「イン・ザ・プール」も読んでみたいと思っている。総合評価は星3.5個。
或る日突然、空中ブランコで失敗を繰り返す様になったベテランのフライヤー・山下公平。尖端恐怖症に罹患したヤクザ・猪野誠司。してはいけない事をしたい衝動に駆られる医師・池山達郎。まともな送球が出来なくなってしまった野球選手・坂東真一。強迫症から小説が書けなくなってしまった売れっ子作家・星山愛子。心に病を抱えた彼等が飛び込んだのは「伊良部総合病院」。精神科医・伊良部一郎に助けを求めるも、奇人中の奇人と言って良い彼の治療は、毎回ビタミン注射を打つ事ばかり。それだけでは無く、彼の奇想天外な言動に患者達は振り回され・・・。
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奥田英朗氏の小説「空中ブランコ」を“今更乍ら”読破。「今更乍ら」と書いたのは、この作品が第131回(2004年上半期)直木賞を受賞した作品で在り、TVドラマ化&アニメ化されているのも知っていたけれど、何故かずっと読まないままに6年以上も経ってしまったから。
主人公の精神科医・伊良部一郎は「非常識」を具現化した様な人物で、実在していたら絶対に友人にはなりたくないタイプでは在るが、何とも言えないユニークさを有している。彼の言動を目で追っていてふっと思ったのは、「このキャラクターって、海堂尊氏の『田口・白鳥シリーズ』の白鳥圭輔にそっくり。」という事。気になって調べた所、「田口・白鳥シリーズ」の第一弾「チーム・バチスタの栄光」の刊行が2006年なのに対して、「精神科医・伊良部シリーズ」の第一弾「イン・ザ・プール」(この作品を著したのが奥田氏とは、恥ずかしい事だけれど今回初めて知った。同名の映画が評判になっていたのは知っていたというのに・・・。)は2002年。詰まり伊良部一郎の方が白鳥圭輔よりも先に“デビュー”していた訳で、「もしかしたら海堂氏が、「精神科医・伊良部シリーズ」からインスパイアーされた面も在ったりするのかなあ。」と思ったりも。
この本は5つの短編小説で構成されており、何れも心因性疾患を抱えた者が登場する。個人的に一番魅了されたのは、「義父のヅラ」という小説。医学部の学部長という義父・野村栄介を持つ池山達郎は、義父のもろ判りな「ヅラ」、即ち「鬘」が気になって気になって仕方無い。周りも栄介がヅラで在るのは判っている筈なのに、誰も不自然な程それに触れようとはせず、それが達郎をして「義父のヅラを、皆の面前で取り外してみたい!」と強く思わせてしまうというストーリー。放送作家の鈴木おさむ氏がAERAの連載コラムで以前、「密かに社内不倫しているカップルや、こっそりヅラを着用している男性って、周りは皆気付いているのに、本人達だけは『絶対誰にもばれていない。』と思っているのが不思議。」みたいな事を書いていたが、これには「確かにその通りだよなあ。」と苦笑してしまったもの。自分の場合、当人には本当に申し訳無いのだけれど、明らかにヅラを着用していると判る人を目にすると、「失礼だから見ちゃいけない。」と思えば思う程に却って視線がその頭部に行ってしまうという悪癖が在る。自分が同じ立場だったらさぞや嫌な思いをするで在ろう事を頭では充分理解しているのだが、この悪癖はどうしても直らない。本当に困ったものだ。
又、外出する前にガスや電気を消し、ドアの鍵を閉めたのを確認したのに、後から「大丈夫だったかなあ。」と思ってしまう軽微な強迫症を自覚しているので、それを扱った「女流作家」もなかなか興味深かった。
本当に今更乍らなのだけれど、「空中ブランコ」は面白い。早い内に「イン・ザ・プール」も読んでみたいと思っている。総合評価は星3.5個。
伊良部先生、愚鈍なのかそれとも頭脳明晰なのか、その辺がハッキリしないのが又面白くも在ります。“天然物”を思わせる妙な言動の中、時折キラッと光る言葉を吐く。不思議なキャラクターです。
映画は観ました。トラックバックしましたが、面白かったです。お勧めです。