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【生存制限法】
「不老化処置を受けた国民は、処置後百年を以て、生存権を始めとする基本的人権は、此れを全て放棄しなければならない。」とする法律で、一般的に「百年法」と称されている。
原爆が6発落とされた日本。敗戦という絶望の中、共和国となった日本は、アメリカ発の不老技術“HAVI”を導入した。縋り付く様に“永遠の若さ”を得た日本共和国民。
しかし、世代交代を促す為、不老処置を受けた者は百年後に死ななければならないという法律「生存制限法」も、併せて成立していた。
そして、西暦2048年。実際に訪れる事が無いと思っていた百年目の“死の強制”が、愈間近に迫って来た時、忘れ掛けていた「生の実感」と「死の恐怖」が此の国を覆う。其の先に、新たに生きる希望を見出だす事が出来るのか?
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山田宗樹氏の小説「百年法」は、「近未来の日本を舞台にしたSF小説」だ。不老技術“HAVI”を施された人間は、癌等の病に罹患しない限り、永遠に生き続けられる可能性を得たのだが、此の儘では「人口増大による食糧難の可能性が出て来る事」や「世代交代が進まない事」等の理由から、国は所謂「百年法」の導入により、施術から百年経った人間は強制的に死を迎えさせる事に踏み切った。
「強制的に死を迎えさせようとする立場」と「強制的に死を迎えさせられる立場」との鬩ぎ合い。そして、自らの意思で“HAVI”の施術を拒否した人間、所謂「老化人間」も存在し、其れ其れの立場で「百年法」と対峙する。
仮に20歳で“HAVI”を施された場合、百年後でも見た目は20歳の儘で止まっている訳だ。此の小説で「面白いなあ。」と感じたのは、「親が若い時点で“HAVI”を施し、生まれて来た子供も又、同様に若い時点で施すと、見た目だけは共に同年代という可能性も出て来る事から、『親子』という意識が薄れてしまい、『親子関係』を解消してしまうケースが続出する。」という設定。若い時点で“HAVI”を施し、生き別れになっていた祖母が、知らない儘に孫と恋仲になってしまうなんて事も在り得る訳で、「確かに見た目という要素は大きく、そういう可能性も出て来るんだろうな。」と。
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「我々は理解していなかったのだ。永遠の生と、その真逆であるはずの死の間には、紙一重の差しかないことを。自分でそうと気づかぬうちに、その境界を踏み越えてしまったのだよ。生と死の境界を失った者にとって、永遠に生きることは、死ぬことと完全にイコールとなる。」。
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強制的な死を恐れ、「百年法」を叩き潰そうとする人々。しかし、実際に“永遠の命”を意識した時、「生き続ける事の怖さ」から自殺してしまうという、矛盾した行為に出る人間が続出。
手塚治虫氏の名作「火の鳥」に「未来編」というのが在り、主人公の山之辺マサトは“永遠の命”を得るのだが、核戦争の勃発で地球上から自分以外の全ての生物が死に絶え、マサトは唯一の生命体として生き続けなければならなくなる。肉体は朽ち果て、意識体となっても、「自分だけしか存在していない。」という孤独にマサトはずっと向き合わなければならず、読んでいて「恐怖」を覚えた物だった。だから、「“永遠の命”を意識する事で、『生き続ける事の怖さ』から自殺者が続出。」という設定も判らないでは無い。
「経済衰退、少子高齢化、格差社会・・・国難を迎える日本に捧げる衝撃の問題作!」という惹句が此の作品には記されていたが、強ち大袈裟とは言えない。上巻&下巻併せて800頁を超える長編だけれど、面白くて一気に読了してしまった。
総合評価は、星4つとする。