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東城大学病院は存続の危機に立たされ乍らも、運営を続けていた。そんな折、「肺癌患者が右肺葉摘出手術で亡くなったのは、病理医の誤診が原因ではないか?」との疑惑が浮上。田口公平医師は「実態を把握せよ。」という高階権太病院長の依頼を受け、仕方無く、呼吸器外科や病理検査室等の医師や技師達に聞き取り調査を開始する。
カレイドスコープの如く、見る角度によって様々な形となって姿を現す大学病院。果たして、事件の真実とは?
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「カレイドスコープの箱庭」は、海堂尊氏の「田口・白鳥シリーズ」の第7弾に当たる。(番外編及びスピンオフを除く。)第1弾の「チーム・バチスタの栄光」は海堂氏のデビュー作でも在るが、刊行されたのは2006年の事なので、「田口・白鳥シリーズ」は8年も続く人気シリーズ。唯、前作の「ケルベロスの肖像」が著者曰く「『田口・白鳥シリーズ』の完結編。」という事だった筈で、其れなのに新作となると、「何度も『此れが最後!』と言い乍ら、新作が作られ続けて来た『宇宙戦艦ヤマト・シリーズ商法』と同じ匂い。」を感じたりもする。
新作が出る毎に、マンネリ感を増していた同シリーズ。今回の「カレイドスコープの箱庭」は、ストーリー部分が約230頁とコンパクトな事も在り、マンネリ感は減じられていた様に思う。其の一方で、全体の約17%にも当たる頁数が「作品相関図」等の“御負け”に使われていたのは、人によっては損をした感じがするかもしれない。
「医療現場を取り巻く問題点」に付いては色々考えさせられるが、門外漢には少々判り辛い記述も在り、理解する為に何度か読み直してしまった。こういった重要なポイントは、仰々しい比喩を用いずに、もっと平易な記述が好ましく思う。
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「現代では死の境界線が曖昧になっています。脳死は、医学が進歩し昔なら生存不能な人が、機械の補助で生き永らえるという状況が出現し、新しい死の定義が必要になったため、新たに生み出された概念です。しかも脳死を設定した本来の目的は、移植に新鮮な臓器を提供するためです。死の三徴は呼吸停止、心停止、瞳孔拡大で、そのうち呼吸と心臓の機能は機械で代行できますが、瞳孔拡大で代表される脳機能だけは機械補助ができません。そのため新しい死が出現したわけですが、そこで考えてみてください。脳死判定の前にCT撮影をしたら、それはAiですか?」。「違います。」。彦根が即答すると、桐生は質問を重ねる。「では、脳死と判定された後では、その画像はAiになりますか?」。
ここまで来て、俺にもようやく桐生が問題提起したいことが理解できた。脳死判定に画像診断が組み込まれると、Aiは死亡を判定する画像になってしまうので、Aiを読影した瞬間に死が確定されるという、SFもどきの事態が出現してしまうわけだ。
「医学が進歩し、人工授精という技術が生まれたため生命の起点が前方に遡り、受精卵が生命個体の発生点になりました。また、人工呼吸器や人工心臓が出来たため、死は後方に延長された。その新しい終点が脳死です。こうした概念の転換時に基本になる医学文法がエシックスです。新しい医学、医療を一般大衆に呑み込ませるには、エシックスは必要不可欠なのです。」。
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マンネリ感は減じられたものの、謎解きの部分では凡庸な感じが。人間・田口公平の成長が見られるのは、シリーズのファンとして嬉しいけれど。
総合評価は、星3つとする。