************************************************
研修を経て、循環器内科医となった諏訪野良太(すわの りょうた)は、学会発表を終えた帰り、医学生時代の同級生で在る小鳥遊優(たかなし ゆう)とに遭遇する。小鳥遊が連れていた研修医・鴻ノ池舞(こうのいけ まい)に、研修のエピソードを求められた諏訪野の脳裏に蘇るのは、親身に寄り添って来た患者達の事。丸で戦場の様な救急部、心の傷と向き合う形成外科、掛け替えの無い“或る人”との出会いと別れを経験した緩和ケア科。切なくも温かな記憶の扉が、今開く。
************************************************
現役の医師でも在る作家・知念実希人氏。今回読んだ「祈りのカルテ 再会のセラピー」は彼の作品で、「『祈りのカルテシ』リーズ」の第2弾。「純正会医科大学を卒業し、純正会医科大学附属病院に研修医として入った諏訪野良太が、初期臨床研修で各課を回っている中、様々な“事件”に巻き込まれ、研修医としてだけでは無く、人としても成長して行く姿を描いた。」のが第1弾「祈りのカルテ」で、自分は総合評価「星4つ」を付けた。
「祈りのカルテ 再会のセラピー」では、良太は30歳となっており、一人前の医師として働いている様だが、医学生時代の同級生・小鳥遊優と再会した事で、研修医時代の話となる。詰まり、此の作品“も”、メインとなっているのは、研修医時代の良太の姿だ。
「プロローグ、3つの短編小説、2つの幕間、そしてエピローグ」で構成された「祈りのカルテ 再会のセラピー」。複雑な家庭環境で育った事から、周りの目を過度に意識し、人の顔色を窺う癖が付いてしまった涼太。其の事で相手の気持ちを汲み取るのは得意だが、一方で相手に感情移入し過ぎて、必要以上に影響され過ぎてしまうという面も有している。嘗て精神科で研修した際には、指導医から「君は患者に、というか他人にシンパシーを寄せすぎる傾向があるのよ。」、「もし精神科医になったら、多分五年以内に、君は治療を受ける側に回ることになる。」と言われた程。患者の側からすると、自身の側に寄り添ってくれる医師は有り難いけれど・・・。
形成外科での研修を振り返った作品「割れた鏡」は面白く、「矢張り『祈りのカルテ』シリーズは良いなあ。」と思っていたら、最後の作品「二十五年目の再会」は更に良かった。意外過ぎる人間関係に驚かされ、そして副題に「再会のセラピー」と付けられた理由に納得。ぐっと来る物が在ったし、良太が更に成長した事を感じさせる作品だった。
今回の作品に登場する小鳥遊優や鴻ノ池舞等は、知念氏の作品「『天久鷹央の推理カルテ』シリーズ」に登場するキャラクター。「『天久鷹央の推理カルテ』シリーズ」は全部読んでいないので違っているかも知れないが、同シリーズに良太は登場していない筈。違うシリーズのキャラクターを登場させる事で、知念ワールドは更なる広がりを見せる事に。
記事「死神と天使の円舞曲」の中で指摘した様に、プライヴェートでは“ネトウヨ気質の言動”を繰り返している知念氏。其の姿勢は、相変わらずの様だ。どんな思想を持とうが、どんな主張を持とうが、明々白々に法律に抵触したり、人様に迷惑を掛けない範囲で在れば、其れは全くの自由だが、ネトウヨに在り勝ちな「デマの拡散や、明らかな間違いを指摘されると無視したり、見苦しい言い訳に終始する。」というのは本当に残念だし、人としてどうかと思う。傍目から見ていると、「他者から誤りを指摘されると、却って向きになって、自身のスタンスを押し通そうとする。」という癖が、彼には在る様だ。彼が敬愛して止まない安倍晋三元首相も同じ癖を有していたが、実に幼稚。誤りは誤りとしてすぱっと認める潔さが無ければ、何を言おうとも説得力を持ち得ないだろう。
人としてはどうかと思うが、作品自体はは素晴らしい。総合評価は、星4つとする。