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「御前等、そんな仕事して恥ずかしいと思わないのか。目を覚ましやがれ!」。漢字の読めない政治家、酔っ払い大臣、揚げ足取りのマスコミ、馬鹿大学生が入り乱れ、巨大な陰謀を巡る痛快劇の幕が切って落とされた。総理の父・武藤泰山(むとう たいざん)とどら息子・翔(しょう)が見付けた真実の欠片とは!?
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池井戸潤氏の「民王」は、政治の世界を描いた小説。と言っても、決して堅苦しい内容では無い。一部ネタバレになってしまうが、総理大臣と其の息子の中身が入れ替わってしまう(正確に言えば、脳波が入れ替わってしまう。)という、大林宣彦監督の映画「転校生」を思い浮かばせる突飛な設定で、ユーモラスな内容。*1でも、ユーモラスなだけでは無い。「半沢直樹シリーズ」と同様、痛烈に様々な問題提起もされているのだ。「政治とは、何なのか?」、「報道とは、何なのか?」、「政治家の存在意義とは?」、「国民は、政治家を責めているだけで良いのか?」等々。
「ひょっとこ顔で、秋葉系からの人気が高く、漢字の誤読を繰り返す総理大臣。」、「へべれけ会見を行った大臣。」、「パイプを咥え、嫌味な関西弁で話す政治評論家。」等、其のモデルとなった人物が直ぐに思い浮かび、ついつい笑ってしまったが、「凄いなあ。」と思ったのは、漢字の誤読やらへべれけ会見やらを見聞し、こんなにも突飛な設定を考え出した池井戸氏の能力。普通の人なら「何だかなあ・・・。」と苦笑して終わりになろうが、其れだけで終わらないのが、人気作家になれた所以だろう。
非現実的な設定だけれど、妙に現実的な問題を横たわらせている。ユーモラスな記述が多いだけに、其の現実的な問題の数々が、読後に強く残るのかもしれない。
総合評価は、星3.5個。
*1 脳波を読み取られない様にする為、電波妨害装置として「蕎麦屋の出前が被る様なヘルメットに、角状のセンサーが付いたグッズ。」を被らされた泰山親子。其れを見た泰山の妻が「何か、マグマ大使の一家みたいですわね。」と言い放つシーンが在るのだが、自分の様に「マグマ大使」【動画】を知っている世代は、其の喩えの上手さに爆笑するに違い無い。
「弱者に焦点を当て、最後には其の弱者が困難を打ち破り、“勝利”する。」というのが池井戸作品の定番ですが、そういった結果が判っていても、爽快さが心に残る。元気を失っていた日本に在って、「下町ロケット」の世界は、「頑張ろう!」と思わせる物が在って、自分も大好きな小説です。
度を越した警察官や教師、官僚へのバッシング。そういったのを見て、「此の世界に入るのは止めよう。」と思う若者も居るでしょうね。でも、見方を変えると、そういう中で敢えて警察官等を志す若者というのは、「自分が悪い所を変えてやる!」といった心意気が感じられ、期待したいです。
此処数年、「新語・流行語大賞」の候補用語を目にすると、「こんな用語、流行したの?」と思ってしまう、無理無理に押し込んだ用語が何と多い事か。「新語・流行語大賞」に選ばれた用語ですら、「此れって、『新語』とか『流行語』でも何でも無いじゃん。」と思ってしまうケースも在りましたが、今年は久々に「新語」や「流行語」というのがピッタリの用語が多いですね。「(中身は全く無いけれど)アベノミクス」や「今でしょ!」、「倍返し」、「じぇじぇじぇ」等、百花繚乱といった感じ。
「流行語らしい流行語が、TV番組から生み出された。」というのも、久々の事ではないでしょうか。捻くれ者故、「あまちゃん」も「半沢直樹」も見ていませんが、其れでも「じぇじぇじぇ」や「倍返し」という用語は知っているし。