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昭和29年、大阪城付近で政治家秘書が、頭に麻袋を巻かれた刺殺体となって見付かる。大阪市警視庁が騒然とする中、若手の新城(しんじょう)は初めての殺人事件捜査に意気込むが、上層部の思惑により国家地方警察(国警)から派遣された警察官僚の守屋(もりや)と組む羽目に。帝大卒のエリートなのに、聞き込みも出来ない守屋に、中卒叩き上げの新城は「厄介者を押し付けられた。」と苛立ちを募らせる。
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坂上泉氏の「インビジブル」は、第164回(2020年下半期)直木賞の候補となった小説。「太平洋戦争に敗れてから9年後の昭和29年、『新警察法が施行された事で、国警と自治体警察が廃止&統合され、警察庁と都道府県警察が設置された。』という此の年に、『頭に麻袋を巻かれ、何者かに刺殺された死体。』が次々と見付かる。」というストーリー。
“戦前から戦後に到る時代の空気”が、ひしひしと伝わって来る。当時の世相がリアルに描かれているからだ。(実は昨日の記事で取り上げた「寿産院事件」は、此の作品によって初めて知った。)「結構年配の人が描いた作品だろうな。」と思っていたが、著者の坂上氏は1990年生まれというから、今年で31歳。 「そんな若さで、こんなリアルに当時の雰囲気を描けるのか。」と驚いた。各種資料を相当調べ上げたのだろうが、筆力の高さも否めない。
戦争は、関わった人達に多大な影響を及ぼす。其の多くは悲惨な目に遭い、心身に“深い傷”を負うが、一方で戦争によって利益を得る者も存在する。利益を得た者達は概して、悲惨な目に遭った者達を踏み台にする事で、利益を得た。踏み台にした側は“自分が踏み台にした人間”の事を忘れられても、踏み台にされた側は“自分を踏み台にした相手”の事を忘れられないだろう。そんな思いを、改めて強くする作品だった。
総合評価は、星3.5個とする。