*********************************
任官5年目の検事・佐方貞人(さかた さだと)は、認知症だった母親を殺害して逮捕された息子・道塚昌平(みちづか しょうへい)の裁判を担当する事になった。昌平は介護疲れから犯行に及んだと自供、事件は解決するかに見えた。
然し佐方は、遺体発見から逮捕迄「空白の2時間」が在る事に疑問を抱く。独自に聞き取りを進めると、軈て見えて来たのは、昌平の意外な素顔だった。(「信義を守る」)
*********************************
柚月裕子さんの小説「検事の信義」は「佐方貞人シリーズ」の第4弾で、「裁きを望む」、「恨みを刻む」、「正義を質す」、そして「信義を守る」という4つの短編小説で構成されている。
一番印象に残った作品は「信義を守る」。超高齢社会となった我が国では、「介護」が大きな社会問題となっているけれど、「高齢者が高齢者を介護する。」という「老々介護」と共に、「家族を介護する為、労働者が仕事を辞めざるを得ない。」という「介護離職」の深刻度は筆舌に尽くし難い物が在る。「信義を守る」では「介護離職」を扱っており、母親を殺害したとして逮捕された昌平の“真実”が明らかになるに連れ、非常に複雑な思いになった。
*********************************
「矢口(やぐち)さんは、検事の責務は罪を犯した者を糾弾することだとおっしゃいましたが、私はそうは思いません。」。矢口の頬が引きつった。はたわたが煮えくり返っているのだろう。キャリアのプライドか、矢口は感情を表に出さずに訊ねた。「では、君はどう思うのかね。」。「検事の責務は、罪をまっとうに裁かせることだと思っています。」。
矢口は一瞬、驚いたような顔をし、すぐ冷ややかな笑みを浮かべた。「私が言ったことと、いま君が口にしたことのなにが違うんだね。罪人を裁くことに変わりはないじゃないか。」。
佐方は、首を横に振る。「人には感情があります。怒り、悲しみ、恨み、慈しみ。それらが、事件を引き起こす。事件を起こした人間の根底にあるものがわからなければ、真の意味で事件を裁いたことにはならない。」。
佐方は足を一歩前に出し、矢口と顔がつくぐらい近づいた。「なぜ、事件が起きたのかを突き止め、罪をまっとうに裁かせる。それが、私の信義です。」。
*********************************
総合評価は、星3つとする。